貴族派と新学年【十五】
今回は生存報告を兼ねた更新です!
三行あらすじ
シンとガウランを倒したアレンは、<暴食の覇鬼>の力を使って、オーレストの街の復興作業に取り組んでいた。そんなあるとき千刃学院の新入生ルーに「話がある」と誘われ、人気のない場所へ移動。アレンはそこで、『一億年ボタン』について問われてしまう。
「――アレン先輩、一億年ボタンってご存じですよね?」
「っ!?」
ルーの口から飛び出した思いもよらぬ単語に、俺の思考は固まってしまった。
(ど、どうしてルーが一億年ボタンのことを……!?)
驚愕を隠せずにいると、
「……」
ルーがジッとこちらを見つめ、俺の反応を見ていることに気が付いた。
彼女は間違いなく探りを入れている。
何が目的なのかはわからないけれど、一億年ボタンという単語を出し、揺さぶりを掛けているようだ。
「い、一億年ぼたん……? なんだそれ、聞いたことないな」
俺はそう言って、とぼけることにした。
一億年ボタンの危険性は、この身を以ってよく知っているし、あのボタンについては「他言しない」ことをレイア先生と約束しているからだ。
「あれ、知らないんですか? 先輩ならご存じかと思ったんですが……?」
「悪い、完全に初耳だ」
「ふーん……そうですか、初耳ですか」
ルーはスッと距離を詰めると、至近距離でジィッと俺の目を見つめた。
彼女の甘い香りが、ふんわりと鼻腔をくすぐり、鼓動が少し速くなってしまう。
「ち、近いってルー……っ。変な勘違いをされちゃ困るし、ちょっと距離を取ろうよ」
「……なるほど、わかりました。では、いつか思い出したときで結構なので、必ず私に声を掛けてくださいね?」
「いやだから……思い出すも何も、そもそもそんなものは知らないって――」
「――いいえ、先輩は必ず思い出します。遠くない未来にきっと」
彼女の瞳の奥には、確信めいたナニカがあった。
「ルー、キミはまさか……っ」
俺が一歩踏み込もうとしたその瞬間、
「――それじゃアレン先輩、また明日です! 復興作業、頑張ってくださいね!」
いつもの軽い調子に戻ったルーは元気にそう言うと、トテテテッとどこかへ走り去ってしまった。
「……あの顔、間違いなく知っているよな」
一人取り残された俺は、静かに頭を回転させる。
(ルーは一億年ボタンについて確実に知っている。でも、誰から聞いたんだ? あのボタンの存在を知っているのは、極々限られた関係者だけのはず……。もしかして彼女は超越者なのか? どこかで時の仙人と遭遇した? それとも……)
あまり考えたくはないが、黒の組織の関係者……か?
いやそうだとすれば、わざわざ一億年ボタンについて、問い掛けてきた意味がわからない。
もしもルーが組織から放たれた刺客であるならば、俺の警戒を買うような真似は避けたいはずだ。
(……ちょっと情報が少な過ぎるな)
ここで考えていても、埒が明かない。
こういうときはやはり、一億年ボタンについてよく知る、あの人に相談するのがいいだろう。
「今日は確か……月曜日だったな」
幸いにも今日は月曜日、週刊少年ヤイバの発売日だ。
レイア先生のことだから、きっと今頃は理事長室に籠って、大好きな連載作品を読み耽っていることだろう。
「とりあえず、行ってみるかな」
そうして俺は先生と相談するため、千刃学院の理事長室へ向かうのだった。




