貴族派と新学年【七】
剣王祭を目前に控えた、とある日の放課後――俺たち生徒会メンバーは、会長から招集を受けた。ちなみに……クロードさんは今日も欠席、ヴェステリア王国に帰っているということになっているが、おそらく今もあの地下室でモニタリングを続けているのだろう。
「――さて、今日みんなに集まってもらったのは他でもありません、とてもとても大切な『とある決めごと』をするためです」
全員がそれぞれの席に着くとすぐ、会長が本日の議題的なものを切り出した。
「大切な決めごと、ですか?」
「ふむ、なんだろうか」
俺とローズが思考を巡らせる中、リアのアホ毛がピンと立ち上がる。
「あっ、もしかして……剣王祭の選手登録ですか?」
「ピンポーンピンポーン、大正解! 今日はみんなで話し合って、剣王祭に出場する人を決定するわ!」
会長の宣言と同時、生徒会室の空気が一気に温まる。
「後それから――『スペシャルゲスト』、私達と一緒に剣王祭で戦ってくれる、一年戦争の優勝者にも来てもらっているわよ」
剣王祭の『先鋒』は、後進育成のための一年生枠。
千刃学院では、一年戦争の優勝者に対して与えられる場所だ。
「ほほーぅ、『最優秀一年生』のおでましですか……。例のあの子が来るわけだな」
「これは一つ、揉んであげる必要がありそうなんですけど」
リリム先輩とティリス先輩は、先輩風を吹かせる気満々の様子だ。
(そっか、この二人は誰が優勝したのかを知っているんだな)
俺たちが千刃学院の年間行事予定を組み直している間、リリム先輩とティリス先輩は一年戦争の企画・実行・運営を任されていた。
本日のスペシャルゲストの顔と名前も、もちろん知っているというわけだ。
「あまり長々と待たせるのも悪いし――それじゃ、入ってきてちょうだーい!」
会長が部屋の外へ声を掛けると同時、生徒会室の扉がガラガラっと開き、そこから一人の女子生徒が入ってきた。
それと同時、俺は驚愕に目を見開く。
彼女の顔には、途轍もなく見覚えがあったのだ。
「き、君は……っ」
「一年A組、ルー・ロレンティです。よろしくお願いしますね――アレン先輩?」
ルー=ロレンティ。
身長百五十センチ半ばほど、亜麻色のミディアムヘア、愛嬌のある可愛らしい顔立ちをした美少女だ。
俺が千刃学院の入学試験の監督をしていたとき、彼女との間で、ちょっとしたトラブルが起こり……それ以降、特に関わりを持たないまま時間だけが過ぎていき、現在に至る。
「お久しぶりですね、アレン先輩」
「あ、あぁ、久しぶり」
例のあの事件を思い出し、気持ちがドッと重くなった。
「あれ、アレンくんの知り合い?」
こちらの事情を知らない会長は、不思議そうに小首を傾げる。
「えぇ……実は入学試験のときに――」
「――首を絞められて、落ちる寸前でした。いやぁ、あれは本当に凄かったですねぇ」
「ちょっ、ルー!?」
悪意全開の暴露を始めたルーに対し、俺は必死に「待った」を掛けるが……。
「く、首絞めって、中々ハードなプレイをしているのね……っ」
とんでもない勘違いをした会長が絶句し、
「こう見えて意外と俺様気質なのかも……?」
「なんか微妙にリアル感があるんですけど……」
リリム先輩とティリス先輩が、なんとも失礼なことを話している。
「そ、そんなわけないじゃないですか! その件には深い事情があるので、俺の話を聞いてください!」
それから俺は、入学試験当日に発生したイレギュラーについて詳しく丁寧に説明した。
「つまり、アレンくんの霊核が暴走した結果、ルーさんの首を絞めたっと……?」
「はい、その通りです」
「そういう特殊なアレではないんだな?」
「違います」
「本当に趣味嗜好全開のアレじゃないんですけど?」
「断じて違います」
会長・リリム先輩・ティリス先輩の質問に対し、毅然とした態度で答えていく。
「なるほど、そういうことだったのね。……よかったぁ」
「ちぇっ、つまんねーの」
「私の解釈的には、俺様属性も全然ありなんですけど」
とにもかくにも、無事に誤解も解けたところで、お互いに自己紹介をする運びとなる。
「私は生徒会長のシィ=アークストリア。よろしくね、ルーさん」
「書記のリリム=ツオリーネだぜ!」
「会計のティリス=マグダロート」
三年生組の次は、俺たち二年生組。
「……副会長のアレン=ロードルです」
「庶務のリア=ヴェステリアよ」
「同じく庶務のローズ=バレンシアだ」
全員の自己紹介が終わったところで、
「わざわざご丁寧にありがとうございます。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」
ルーは意外にも礼儀正しく、ペコリと頭を下げた。
「さて、自己紹介も済んだところで、早速本題に行きましょうか」
会長はパチンと手を打ち鳴らし、黒いマジックペンを手に取る。
「剣王祭は先鋒・次鋒・中堅・副将・大将――全五戦中、先に三勝をあげた学院の勝利。今日はこれからみんなで話し合って、剣王祭本選の出場選手を、各役職の枠を埋めていくの」
ホワイトボードに各役職名を記した彼女は、机の上に一枚のプリント用紙を置いた。
「初戦の相手は『五学院最強』――皇学院。そしてこれが相手のオーダーシートよ」
「あれ? 相手のオーダーシートって確か、剣王祭当日に発表されるものじゃ……?」
俺の問い掛けに対し、会長はコクリと頷く。
「えぇ、普通はそうなんだけれど……皇学院だけはちょっと特殊なのよ。『王者の余裕』とでも言うのかしらね、いつも出場選手とその出場枠を事前に発表するの。そのうえ今回から新設された『リザーブ枠』も登録なし、完全にこの五人のみで勝ちに来ているわ」
「出場選手を事前に明かしたうえ、リザーブ制度もまったく使わず、ね……。なんだか鼻につく感じがして嫌だわ」
「まぁ個人的には、正々堂々していて好ましいとも思うが……」
リアとローズは、それぞれ対照的な反応を見せた。
この辺りについては、個々人の感性によるところが大きいだろう。
「まぁとにかく、今回の相手はこの五剣士よ」
会長はそう言って、皇学院のオーダーシートに目を落とす。
先鋒:一年生ドレファス=アインベルク
次鋒:二年生ゴドリック=エメルソン
中堅:二年生ネメネン=トットルー
副将:二年生メディ=マールム
大将:二年生シン=レクス
リザーブ登録:なし
ザッと見たところで、ちょっとした違和感を覚えた。
「……あれ、三年生は?」
皇学院の登録選手に、三年生が一人もいないのだ。
剣王祭の選手登録には、定石がある。
主戦力として三年生、それを補助する形で二年生のエース、そして最後にルールで定められた一年生枠を添える、というものだ。
当然ながら一年生と二年生・二年生と三年生の間には、途轍もなく大きな差がある。
(よほどのことがない限り、三年生が主力になるはずなんだけど……)
皇学院の登録選手には、三年生が一人もいなかった。
何か狙いのようなものがあるのか、これもまた王者の余裕というやつなのか。
そんな俺の疑問に対し、会長がはっきりとした答えをくれた。
「皇学院の二年生は『七聖の世代』と言われていて、いずれも将来の七聖剣入りを嘱望される天才剣士たちなの。それに加えて、今年度は活きのいい一年生が入ったそうよ」
「なるほど……」
三年生の入る隙間がないほど、二年生の剣士が充実しているというわけか。
「特に――大将のシン=レクス、彼には最大の注意を払う必要があるわ。なんと言っても、若くして七聖剣の一角を任された天才剣士」
「くぅー、かっけーなー七聖剣!」
「風の噂によれば、超が付くほどの好待遇らしいんですけど……」
リリム先輩とティリス先輩が、それぞれの反応を見せる中、俺はちょっとした引っ掛かりを覚えた。
(この国の七聖剣って確か……)
会長の方に目を向ければ、彼女は無言のままにコクリと頷いた。
どうやらこのシンという名の剣士が、貴族派の抱え込んだ七聖剣で間違いないらしい。
「それから、次はこっちの書類を見てちょうだい」
会長はそう言いながら、山のような書類が四束ドシンドシンドシンドシンと机の上に並べた。
「なんですかこれ?」
「スカウンティングレポートよ。身長・体重・所属流派はもちろんのこと、魂装の能力・基本戦術・戦闘時の癖、本人さえ気付いていない情報までもが、ここにはばっちりと網羅されているわ」
「うわっ、凄いですね」
「よくこんなものが作れたものだな……」
リアとローズが感心しきっていると、
「ふふっ。アークストリア家が総力を結集して、皇学院の出場選手を調査したのよ」
会長はどこか誇らしげに胸を張った。
「それにしても、ここまでやるなんて、今回はかなり本気ですね」
つい先日はネガティブモード全開だったのに、いったいどういう風の吹き回しだろうか?
「私達三年生にとっては、これが最後の剣王祭だもの。全てを出し尽くさなきゃ、この先きっと後悔しちゃうわ」
「……そう、ですか……」
今まであまり意識してこなかったけど、会長たち三年生はみんな、今年で卒業してしまう。
千刃学院の生徒会は、今のこのメンバーで毎日のようにお祭り騒ぎができるのは、今年が最後なんだ。
(……寂しいな)
会長に無理矢理入れられて始まった生徒会だけれど、なんだかんだで楽しい思い出がたくさんある。
それが今年で終わってしまうとなると、なんだか少し悲しくなってきた。
「も、もう……どうして湿っぽい空気になっているのよ! さぁほら、みんなでこれを読み込んで、相手の研究を深めていきましょう!」
会長はパンパンと手を叩き、スカウティングレポートを指さした後――「あっ」と何かを思い出しかのような声を発した。
「言い忘れていたんだけれど、これには一つだけ大きな問題があって、皇学院の大将シン=レクス。彼については、ほとんど何もわからなかったの。魂装はおろか、どんな戦い方をするかさえもね」
「ほぉ、『謎の剣士』ってやつか……」
「なんかちょっとかっこいいかもなんですけど」
リリム先輩とティリス先輩は、何故か二人とも興奮していた。
「一応、戦闘記録は残っているわ。ただ正直、見ていてあまり気持ちのいい試合じゃないの。それでも……見る?」
会長はどこか歯切れ悪く、一本のビデオテープを取り出す。
「戦闘記録があるなら、見てみたいです!」
「七聖剣の生試合の映像、実に興味深いな」
リアとローズは、揃って乗り気な姿勢を見せた。
「そう、わかったわ」
会長は再生機器にビデオを入れ、液晶モニターを操作する。
「この映像は、昨年の大五聖祭の決勝カードよ」
「去年の大五聖祭ってーとあれか、アレンくんが大暴れしたやつだな!」
「観客席から応援してた。あの残虐非道っぷりには、ちょっと引いたんですけど……」
リリム先輩とティリス先輩が、ここぞとばかりに言葉の刃を解き放つ。
「う゛ぐ……っ」
思わぬ角度から古傷をグッサリと抉られ、心のライフポイントが音を立てて減っていった。
(いや、あの件については、本当に反省しています。千刃学院が大五聖祭に敗れたのは――反則負けで失格になってしまったのは、完全に自分の実力不足でございます。なんなら今でもまだ、霊核を制御できていないポンコツ具合……)
俺のネガティブスイッチがオンになり、奈落の底まで気持ちが落ち込んでいく。
「もう、そんな意地悪を言うのはやめてください!」
「そもそもの話、あれは事故だ。氷王学院のシドーが反則を犯さなければ、アレンが暴走することもなかった」
「リア、ローズ……っ」
優しさと温かみに溢れた気遣いの言葉。
思わず、涙が零れそうになった。
「はいはい、冗談はこれぐらいにして、ビデオを確認していきましょう。シンが出場したのは、皇学院と炎帝学院の大将戦よ」
「そういや去年の炎帝、かなり強かったよなぁ」
「確か、くじ運もよかったはずなんですけど」
リリム先輩とティリス先輩の発言に対し、会長はコクリと頷く。
「えぇ、そうね。去年の炎帝学院は、優秀な剣士がたくさん入学してきたことと、組み合わせの妙が重なって、見事に決勝までコマを進めたわ」
そう言えば……。
(このビデオを見たら、俺は一応、五学院全ての試合を見たことになるのか)
五学院はリーンガード皇国を代表する、五つの名門剣術学院――千刃学院・氷王学院・白百合女学院・炎帝学院・皇学院の総称だ。
絶対王者、皇学院。
永遠の二番手、白百合女学院。
安定の中位、炎帝学院。
下剋上を狙う、氷王学院。
万年ドベ、千刃学院。
これが直近十回の剣王祭の結果を基にした、五学院の序列らしい。
「それじゃ、再生するわね?」
会長が専用デッキにビデオを入れると、テレビ画面にザザザッと荒い映像が映り始めた。
「ちょっと画質が悪いけれど、向かって左側の剣士が皇学院のシン=レクス。右側の剣士が炎帝学院のコレスタ=ボーエンよ」
画面の中央――大きな石舞台の上には、二人の剣士が十分な距離を保ったまま、向き合っていた。
「それではこれより、皇学院シン=レクスと炎帝学院コレスタ・ボーエンの試合を開始します! 両者、準備はよろしいですか!? ――はじめッ!」
開始の合図と同時――コレスタさんは魂装を展開する。
「火天に舞え――<火輪焔舞>!」
画面越しにもわかるほどの 蒼い炎が灯る
それを受けたシンは、ゆっくりと膝を折り――なんとその場で寝転んでしまった。
「……貴様、いったい何をしている?」
「何って……ごろ寝?」
「そんなものは見ればわかる! そうではなくて――この神聖な決闘の場で、何故ごろ寝に耽っているのかを問うているのだ!」
激昂するコレスタに対し、シンはどこ吹く風と言った様子だ。
「もう、そんな大声を出さないでよ……。別に『寝るの禁止』ってルールはないでしょ?」
「ふざけたことを……っ。――審判! これはダウン状態だろう! カウントを取れ!」
「それが……規則上、腹部か背中が完全に接地した状態でなければ、ダウン状態とみなされませんので……」
「そーそー。だからゴロ寝はいいんだってばー」
シンは「舞台についているのは、横腹と脇だからセーフセーフー」と言って、ケタケタと笑った。
「くだらぬ屁理屈なぞ、どうでもよい! 剣士の勝負は真剣勝負! 尋常に立ち会え!」
「五月蠅いし、熱苦しいし、なんか喋りは古臭いし……。ほらほら、御託はいいから、さっさと来なよ」
シンのあまりにも人を舐めた態度に対し、コレスタの堪忍袋の緒が切れた。
「貴様……後悔するなよ?」
コレスタさんは眩い蒼炎を帯びた直剣を振りかぶり、シン目掛けて一直線に突き進む。
「食らえ! 鬼炎流奥義――焦下煉獄刃!」
しかし次の瞬間、
「……な、ぜ……?」
コレスタさんの魂装は、粉々に砕け散った。
シンが無造作に振るった――否、まるで羽虫を払うかのような軽い手首のスナップで、いとも容易く粉砕されてしまったのだ。
「あはは、面白い顔だなぁ。――『伏せ』」
命令と同時、シンの全身から莫大な霊力が吹き荒び、コレスタさんはその場に膝を突く。
「ぐ、ぉ……ッ」
頭上から降り注ぐ圧倒的な霊力の塊に対し、なんとか必死に抵抗して見せるが……その甲斐も虚しく、ついには舞台に組み伏せられてしまった。
「こ、コレスタ選手、ダーウン! カウントを取ります! ワン・ツー・スリー……!」
「あれれー、どうしたのかなぁ? 剣士の勝負は……なんだってぇ?」
「ぐ、ぉおおおおおおおおおお……!」
コレスタさんは裂帛の気を吐いた。
硬く握った拳から血が滲み、食い縛った口の端から泡を浮かべ、見開いた両の眼から血涙が流れ落ちる。
しかし……どれだけ力を振り絞ろうとも、立ち上がることはできず、カウントだけが無常にも進んで行く。
そして――。
「エイト・ナイン・テン……!」
あっさりテンカウントが数えられ、あっけなく勝負は決してしまった。
「しょ、勝負あり! 皇学院シン=レクス! これにより、今年度の大五聖祭を制したのは、皇学院です!」
実況が勝敗を宣言し、皇学院の優勝が決まった。
「ふわぁ……つまんな」
労せずして勝利を収めたシンは、気だるげに立ち上がり、大きなあくびをする。
「そん、な……っ。俺のこれまでは、あの厳しい修業は……いったい……ッ」
一方のコレスタさんは、立ち上がることができなかった。
四つん這いの姿勢のまま、ボロボロと大粒の涙を零していた。
そんなコレスタさんのもとへ、シンが軽い足取りで向かっていく。
「えーっと、コレスタくんだっけ? 無駄な努力、ご苦労様ぁ!」
とびっきりの嫌味が発せられたところで、テレビの映像はブツンと途切れた。
「「「……」」」」
重苦しい空気が流れる中、会長が補足説明を加える。
「……この試合の後、コレスタさんは炎帝学院を辞め、剣術の道を断ったそうよ」
圧倒的な実力差で負けた挙句、大衆の面前で耐え難い侮辱を受けたのだ。
そういう決断に至ったのも、無理のない話だろう。
「シン=レクス。まだ会ったこともないけど、率直に言って嫌いだわ」
「あぁ、性根の腐った男だな」
「いくらなんでも、ちょっとやり過ぎですね」
リア・ローズ・ルーが強い嫌悪感を示し、
「こんな馬鹿野郎、リリム・ツオリーネ様が天誅を下してやるぜ」
「相当胸糞悪い奴なんですけど……」
リリム先輩とティリス先輩が苦言を呈する中、会長がパシンと手を打ち鳴らす。
「気持ちはとてもよくわかるけれど、今は切り替えて、相手の魂装や戦法を分析しましょう」
それから俺たちは、スカウティングレポートを活用して、研究を深めていく。
まずは身長・体重・リーチといった身体的情報を把握し、次に魂装の能力を正確に理解し、最後に個々人の癖・無意識に取りがちな行動を頭に入れる。
基本的な事項を共有した後は、相手の攻撃・防御・回避パターンを想定し、その対処法と切り返す手段を話し合った。
そんな風にして先鋒・次鋒・中堅・副将と分析を深めていき、最後に残ったのが問題の大将――シン=レクスだ。
「……これだけ、ですか……」
シン=レクスに関するレポートは、プリント用紙たったの一枚のみ。
皇学院の他の選手については、最低でも五十枚以上の情報があったことを考えると、あまりにも数が少ない。
「七聖剣の一人ということもあって、シン=レクスの情報は厳重に管理されていたのよね……。さっきの録画映像も、かなり苦労して手に入れた貴重なものだそうよ」
会長はそう言いながら、シンのスカウティングレポートを読み上げる。
「皇学院一年A組シン=レクス。身長は168センチで体重は50キロ、男性剣士としてはかなり細身な部類ね。十歳のとき、歴代最年少で七聖剣入りを果たした世界的な天才剣士。魂装:不明。戦術:不明。戦闘時の癖:不明。残念ながら、参考になる情報はほとんどないわ」
明らかになっているのは、身長と体重ぐらいのものだ。
「さっきの映像を見る限り、純粋な身体能力は、それほどでもなさそうだったわ。問題はやっぱり、あの異常なまでの霊力ね……」
何のトレーニングもしていない剣士でも、莫大な霊力をその拳に集中させれば、鉄板を砕くことも容易い。
シンの披露した莫大な霊力、あれを全身に纏わせれば、彼は絶対的なパワーと驚異的なスピードを誇る剣士と化す。
「どんな魂装かわからないことも、かなり怖いですよね」
「未知の能力は、それだけで脅威だからな」
リアとローズは深刻な表情で呟き、
「しかも皇学院側から見れば、うちの大将枠がアレンくんなのはほぼ確定だろ?」
「アレンくんの知名度は抜群に高いから、魂装<暴食の覇鬼>の能力もバレバレなんですけど……」
リリム先輩とティリス先輩は、さらに悪い情報を付け加え、
「つまり――こと大将戦に限って言えば、情報の面でも大敗を喫している状況ね」
会長が冷静に現状を纏めた。
「「「「「「「……」」」」」」」
生徒会室に重たい空気が流れる中、
「とにかく、アレンくんには『頑張って!』としか言えないわね」
「ぶっちゃけ、いつも通りだな!」
「ファイトなんですけど」
会長・リリム先輩・ティリス先輩はグッと拳を握り、
「きっと大丈夫、アレンはこれまでどんな強敵にも勝ってきたんだから!」
「お前が負ける姿など、想像もできん」
リアとローズは、何故か自信満々にそう語る。
「あはは、まぁ頑張ってみます」
みんなからの期待と信頼が、なんとも言えず、こそばゆかった。
スカウティングレポートの精査が終わったところで、いよいよ千刃学院の登録選手を決めていく。
「まずは先鋒。ここは一年生枠だから、ルーさんに任せるわね」
「はい、頑張ります!」
先鋒は後進育成のための一年生枠。
ここについては、今年の一年戦争を制した、ルー=ロレンティで固定だ。
「そして次鋒。相性的に私が出るのがいいと思うのだけれど……どうかしら?」
皇学院の次鋒は二年生のゴドリック=エメルソン。
大柄な体躯を誇る巨漢の剣士だが……実際のところはかなり非力らしく、精緻な剣術と結晶を司る魂装の多段攻撃で、着実に相手を追い詰める頭脳派剣士だ。
「確かにゴドリックの相手は、会長が適任だと思います」
彼女は針の穴を穿つが如く正確無比な剣を振るい、魂装<水精の女王>の力によって、様々な変化に対応可能な万能タイプの剣士だ。
おそらく本番では、技術と技術がぶつかり合う、超ハイレベルな試合が繰り広げられることだろう。
「会長の水の力なら、どんな攻撃にも対応できますしね」
「剣術勝負でも、まずもって負けることはないだろうな」
リアとローズは太鼓判を押し、
「細かい剣術とかは苦手だし、こいつの相手はシィに任せたぜ」
「右に同じなんですけど」
リリム先輩とティリス先輩も納得の表情だ。
こうして先鋒・次鋒の二枠は、思いのほか簡単に決まったのだが……。
中堅と副将の枠を埋めるのが、中々どうして大変だった。
「ネメネンの能力は森林操作! 植物が相手なら、私の<原初の龍王>が有利を取れます!」
「いやいや待て待て! ここはリリム=ツオリーネ様の<炸裂粘土>が最高に活きる場面だろう!? 森なんか出されても、一撃で吹き飛ばしちまうぜ!」
「メディは純粋な強化系だ。同じ系統の能力を持つ<緋寒桜>こそ、最も真価を発揮するだろう」
「相手が純粋な強化系だからこそ、<鎖縛の念動力>の搦め手がハマると思うんですけど……!」
それぞれが自分たちの強みを主張し、我こそが最もふさわしいと力説する。
その後しばらくして――夕陽が西の空に沈もうかという頃、ようやく千刃学院のオーダーシートが完成した。
先鋒ルー=ロレンティ
次鋒シィ=アークストリア
中堅リア=ヴェステリア
副将ローズ=バレンシア
大将アレン=ロードル
リザーブ登録
リリム=ツオリーネ、ティリス=マグダロート
「――うん。これが今の私達が組める、ベストの布陣ね!」
会長はそう言って、満足気に頷いた。
「うぅ、なんだかもう緊張してきました……っ」
ルーは不安気な表情を浮かべ、
「大事な大事な次鋒戦、絶対に勝ってみせます!」
リアは闘志を漲らせながら必勝を誓い、
「副将……。中々の重責だが、しっかりと担わせてもらおう」
ローズは責任感に燃えていた。
その一方、
「ちぇっ、私は出番なしかよー」
「残念なような、逆にホッとしたような、複雑な気持ちなんですけど……」
リザーブ枠に回ったリリム先輩とティリス先輩は、見るからに消化不良といった様子だ。
「今回は仕方がないわね。リリムとティリスの能力は、ちょっと噛み合わなかったし」
リリム先輩の<炸裂粘土>とティリス先輩の<鎖縛の念動力>は、他の魂装と組み合わせることで大きな力を発揮する。そのうえ今回は、相手の能力との相性もパッとしなかったため、リザーブ登録に回ることになったのだ。
「――さぁみんな、剣王祭まで後もう少し! 本番当日は、そして何より、絶対勝つぞー!」
「「「「「「おーっ!」」」」」」
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