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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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貴族派と新学年【三】


 四月一日。

 波乱万丈に満ちた春休みもようやく終わり、今日からいよいよ新学年が始まる。


「さて、と……忘れ物はないか?」


「うん、ばっちり」


 朝の準備を済ませ、制服に着替えた俺とリアは、いつものように寮を出た。


「いい風だな」


「なんだか気持ちがいいわね」


 暖かいお日様の陽気と心地よい春風を感じながら、二人で一緒に千刃学院へ向かう。 

 一か月ぶりの登校なのに、なんだか随分と久しぶりな気がした。


「おっ、クラス分けが出ているぞ」


 本校舎に入ってすぐの掲示板、そこには各学年のクラス表が張り出されていた。


「俺は……うん、今年もA組だな」


「私もA組。よかった、ローズとクロードも一緒ね」


 千刃学院のクラス分けは、成績の上位順にA組からF組へと振り分けられ、その後は基本的に大きく変動しない。


「休み明けの初登校って、なんか緊張するよな」


「そう? 私はむしろ、みんなに会うのが楽しみで、ワクワクしちゃうわ」


 長い廊下を真っ直ぐ進み、二年A組の扉をガラガラッと開けると――。


「おーっす、アレン。元気してたか?」


「リアさん、お久ーっ!」


「二人とも、おはおはー」


 クラスメイトのみんなが、元気よく朝の挨拶をしてくれた。


「おはよう」


「みんな、おはよう」


 俺とリアは手をあげながら挨拶に応じ、自分たちの席に着く。

 それと同時、一つ前の席にドッカリとテッサが座り込んだ。


「よー、アレン。俺はついに斬鉄流(ざんてつりゅう)を極めた! これでようやく、お前ともタメを張れるぜ!」


 彼はそう言って、野性的な笑みを浮かべた。

 よくよく見れば、体付きが一回り大きくなり、拳が武骨に仕上がっていた。


 どうやらテッサは、中々充実した春休みを過ごしたらしい。


「それは楽しみだな。後で軽く摸擬戦でも――」


 俺がそんな提案を口にしようとした瞬間、横合いから二人のクラスメイトが割って入ってきた。


「いやいや、テッサとアレンじゃモノが違うだろ?」


「やめとけやめとけー。怪我するだけだぞー?」


「んだとこらっ、もっぺん言ってみやがれ!」


 そうやってテッサたちが追いかけっこを始めた頃――教室の後ろ扉がカラカラカラっと控えめに開かれた。

 そこから姿を見せたのは、寝ぼけまなこのローズだ。


「ローズ、おはよう」


「おはよう、ローズ。相変わらず、朝は駄目なのね」


「……ぅむ……おはよぅ」


 彼女は目元をごしごしとこすりながら、自分の席へ移動する。


 ローズが入室した後、続けざまに入ってきたのは――クロードさんだ。


「おはようございます、リア様!」


「あっ、クロード! 帰って来てたのね!」


「はい、お会いできて光栄でございます!」


 クロードさんは一月の初旬にヴェステリア王国へ帰っていたため、およそ三か月ぶりの再会となる。

彼女が一時帰国したのは確か……親衛隊隊長として、王国の大切な会議に出席しなければならない、という理由だったはずだ。


「もぅ、こっちに戻っていたのなら、連絡ぐらいちょうだいよ」


「申し訳ございません。リーンガード皇国に到着したのは、昨夜の最終便だったものでして……」


「そっか、それなら仕方ないわね」


 事情を理解したリアは大人しく引き下がった後、嬉しそうにパンと両手を打つ。


「でも、こっちに戻って来られたってことは、もう会議は終わったんでしょ? これからはまた、昔みたいに一緒にいられるわね!」


「重ね重ね、申し訳ございません……。情勢が情勢だけに、今後もしばらくは本国との往復生活が続きそうです」


「むぅ……クロードもいろいろと大変なのね。お疲れ様、いつもありがとう」


「あぁ、なんともったいなきお言葉……っ。五臓六腑に沁みわたります……!」


 クロードさんは瞳を潤ませ、歓喜の涙を流した。

 彼女の忠誠心の高さは、相も変わらずといった具合だ。


 その後、ホームルームが始まるまでの間、クラスメイトたちと雑談に興じる。


 春休みの間どこそこへ行っただの、彼氏彼女ができただの、新しい修業法を編み出しただの……他愛もない話が延々と無限に湧いて出てくる。

 どこにでもある日常の一コマ、なんだかそれがとても楽しく感じた。


 そうこうしているうちに、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り、ガラガラガラッと勢いよく教室の扉が開かれる。


「おはよう、諸君! ふむ、ふむふむふむ……欠席・遅刻ともになし! 素晴らしい! 新学期に向けて、完璧なスタートだな!」


 教室全体をグルリと見回した先生は、満足そうに「うんうん」と頷き、ホームルームを開始する。


「さて、それでは連絡事項に移ろう。今日は珍しく、二つもあるぞ」


 彼女は手に持っていた黒いバインダーを開き、コホンと咳払いをする。


「一つ、今年度はかなり『変則的なスケジュール』が組まれそうだ。詳しいことはまた後ほど学年集会で発表されると思うが、ひとまず頭の片隅にでも入れておいてくれ」


 変則的なスケジュール……なんだろう、授業日程が変わったりするのだろうか?


「それからもう一つ、諸君らの学友クロード=ストロガノフについてだ。既に知っている者も多いと思うが、クロードはヴェステリア王国に籍を置く剣士で、親衛隊の隊長という重責を務めている。かつてないほどに国際情勢が不安定な今、リーンガード皇国とヴェステリア王国を頻繁に行き来するため、今後しばらくの間は欠席が頻繁にみられる……と、本人から申し出があった。別に体調不良で休んでいるというわけではないので、あまり心配はし過ぎないように――以上だ」


 クロードさんは千刃学院の学生であると同時に、ヴェステリア王国の剣士でもある。

 こればかりは仕方がないだろう。


「さて、それではこれより、新年度一本目の授業を行う! 今年もビシバシしごくつもりなので、気合いを入れてついてくるように!」


「「「はい!」」」



 午前の過酷な授業を終えた俺・リア・ローズ・クロードさん――二年A組の生徒会メンバーは、定例会議ことお昼ごはんの会に出席するため、生徒会室へ移動していた。


「ふぅ……中々ハードな授業だったな」


「レイアのやつ、久しぶりの授業だからって、ちょっと気合いを入れ過ぎよ……っ」


「正直、あれを『ハードな授業』で済ませられるのは、アレンだけだと思うぞ……」


「ドブ虫め。相変わらず、ふざけた生命力をしているな……っ」


 リア・ローズ・クロードさんには、疲労の色が強く見られた。


 そんな話をしているうちに生徒会室に到着。コンコンとノックをしてから、ゆっくり部屋の開けるとそこには――信じられない光景が広がっていた。


「リリムは職員会議に提出する稟議書(りんぎしょ)の作成、フェリスは今年度予算の見直しをお願い」


「りょ、了解だぜ……っ」


「え、えーっと……」


 会長がテキパキと指示を出し、リリム先輩とフェリス先輩が青い顔で動いている。

 あまりにも異常な光景を目にした俺は、呆然と立ち尽くしてしまった。


「そ、そんな……っ。あの(・・)先輩方が……お仕事を……!?」


 普段はまったくと言っていいほどに働かない会長が、ちょっと難しい話をしたらすぐに頭を爆発させるリリム先輩が、ソファから梃子(てこ)でも動かないぐーたらなフェリス先輩が……自主的に仕事をしている!?


(これはまさか……新手の魂装か!?)


 精神干渉系の攻撃を受けたのかと思ったけれど……俺の霊力は、まったく乱れていない。


 すなわちこれは、現実に起こっている異常事態だ。


「ちょっとアレンくん……? 『先輩方がお仕事を』って、どういう意味かしら?」


「私達だって、仕事ぐらいできらぁ!」


「今のはさすがにちょっと失礼なんですけど……?」


 会長たちは口を揃えて、不平の言葉を述べた。


「あはは、すみません。あまりに珍しい光景だったので、つい……」


 生徒会業務はもっぱら、副会長の俺がこなしているとはいえ、今のは少し大袈裟に驚き過ぎたかもしれない。


「でも会長、どうしてお昼から生徒会業務を?」


「いったいどういう風の吹き回しだ?」


「何かイレギュラーでもあったのですか?」


 リア・ローズ・クロードさんが口々に問い掛け、会長が困り顔でコクリと頷く。


「イレギュラーもイレギュラー、今年度はもう『ぐちゃぐちゃ』なのよ……」


 会長は椅子に深く腰掛けたまま、机の上を指さした。

 彼女が指さす先には、千刃学院の年間行事予定表が置かれている。


「うわぁ、懐かしいですね」


 俺は予定表を手に取り、ザッと流し見ていく。

 そこには入学式・大五聖祭・新勧・部費戦争・一年戦争・剣王祭・千刃祭・クリスマスパーティなどなど……俺たちが昨年経験した、様々なイベントが記されていた。


「でも、これがどうかしたんですか?」


 今年度の年間行事予定ならば、俺が昨年度末に全て組み終えて、職員会議の承認も取っているはずだ。


「去年アレンくんが組んでくれたそれ……全部変更になっちゃった」


「…………は?」


『全部』とは、いったいどういう意味だ?


 頭が一瞬、真っ白になってしまう。


「例えば……剣王祭の一年生枠を決定する『一年戦争』、これは三日後に開かれます」


「三日後ぉ!?」


 あまりにも無茶苦茶なスケジュールだったので、思わず声が裏返ってしまった。


「いやいやいや……っ。三日後なんて無理ですよ! というか、大五聖祭はどうなるんですか!?」


「今年度の大五聖祭は中止。その代わり、剣王祭を今月末に開催するらしいわ」


「え、えー……っ」


 一年戦争が三日後、大五聖祭は中止、剣王祭は月末開催……。

 無茶苦茶というか、ぐちゃちゃだ。


「どうしてそんな荒れたスケジュールになっているんですか?」


「いったい誰が決めたのだ?」


 リアとローズの質問に対し、リリム先輩とフェリス先輩が答えを返す。


「聖騎士協会の本部から五大国へ――テレシア公国が墜とされちったから、今はもう四大国か。とにかく主要な大国へ、いろんなお達しがあったらしいぜ? なんかよくわかんねーけど、『上からの指令』ってやつだ!」


「剣王祭をいつもより早く開催して、優秀な剣士を見出(みいだ)すのが、目的だとかなんとか……?」


 一応の答えを聞いたところで、会長がパチンと指を鳴らす。


「アレンくんたちも来たことだし、作業は一旦ストップ、お昼ごはんにしましょう」


「賛成だぜぃ!」


「お腹ペコペコなんですけど!」


 その後、それぞれの席に移動し、いつものようにみんなで昼食をとる。


 食事中の話題はもちろん、放課後の生徒会業務についてだ。


「放課後は行事ごとに役割分担して、進めていこうと思っているわ」


 会長はそう言いながら、チーム分けを発表していく。


「『一年戦争』はリリムとフェリスチーム。まずは当日のスケジュールを組んで、理事長室にいるレイア先生の承認をもらうこと。それが終わったら、一年生の学年掲示板に貼る公示用のポスターを作製。最低でもここまでは、今日中に片付けちゃってちょうだい」


「うへぇ……」


「聞いているだけで、気が重くなってくるんですけど……」


 リリム先輩とフェリス先輩は、見るからに嫌そうな顔をしている。


「『新歓』はリアさんとローズさんとクロードさんチーム。新勧は学院全体のイベントだから、ちょっぴり大変かもしれないけれど……あなたたちになら任せられるわ。まずは放送部のところに行って、新勧の日程を全校生徒へ連絡してもらえるよう手配。それから各活動団体から不満がでないよう、施設利用権を公平に割り振ってちょうだい」


「わかりました」


「任せてくれ」


「承知しました」


 リア・ローズ・クロードさんは、全く問題なさそうだ。


「最後に私とアレンくんは、全体のスケジュールを調整しながら、要所要所で発生するイレギュラーに対処するわ。何かわからないことがあったら、みんな遠慮なく聞きに来てちょうだい」


 会長は生徒会を素早く三チームに分け、それぞれに仕事を割り振った。


「なんだか、会長っぽいですね」


「ふふっ、当然じゃない。これからちょっと忙しくなると思うけど、よろしくお願いするわね。副会長さん?」


「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」



 午後の魂装の強化を中心とした授業を終え、ようやく迎えた放課後。


 こういう忙しい日に限って、問題というのは多発するものだ。


「ちょいちょいちょい! 新歓が一週間後ってどういうことだよ!? こちとらまだ、勧誘ポスターすらできてねぇんだぞ!」


「すみません。生徒会に情報が降りて来たのも今日の今日なので、どうにかご対応いただけると助かります」


 在校生のクレームを素早く的確に処理し、


「おいこらてめぇ、どこに目を付けてんだ!?」


「先にガン付けて来たのは、そっちだろうがッ!」


「ちょっと待った。いったいなんの騒ぎですか?」


 生徒間で発生した荒事(トラブル)を解決し、


「アレン、助けてくれ。十八号が熱で倒れてしまった。このままでは理事長の仕事が溜まる一方なんだ……っ」


「先生はちゃんと働いてください」


 レイア先生からの救援要請を拒否。

 多種多様なトラブルを解決しつつ、みんなで協力して生徒会の仕事を進めていく。


「はぁはぁ……シィ、私はもうここまで、だ……」


「右に同じく、なんですけど……」


 リリム先輩とフェリス先輩は頻繁に泣き言を漏らし、


「こらこら。後輩たちも頑張ってくれているのに、情けないことを言わないの」


 会長が優しく声を掛け、二人を戦列に復帰させる。


「ねぇアレン、放送室ってどこだっけ?」


「アレン、施設利用権の割り振りは、こんな具合で大丈夫だろうか?」


「おいドブ虫、新勧周知用のポスターはどこで印刷すればよいのだ?」


 リア・ローズ・クロードさんの質問に対し、


「えーっと、それはだな――」


 俺が一つ一つ、丁寧に答えていく。


(……なんか、こういうのもいいよな)


 修業に明け暮れる日々も、もちろん素晴らしいのだけれど……。

 今のようにみんなで協力して一つの物事に取り組むのも、『青春の一ページ』という感がしてとても楽しかった。


 それからしばらくの間は、各班が受け持った仕事を進めていく。


 そしてあるとき――キーンコーンカーンコーンとチャイムの音が鳴り響いた。


 気付けばもう夜の六時を回っており、窓の外は暗くなりかけている。


「――よし、今日はこの辺りにして、残りの仕事は明日に回しましょう」


 会長がパンと手を打ち鳴らすと同時、弛緩した空気が流れ出した。


「ふぅー、肩が凝るわねぇ」


「うむ、修業とはまた違う疲労感だ」


「さすがに少々疲れましたね」


 リア・ローズ・クロードさんは、思い思いの方法で体を伸ばし、


「う゛ぁ゛ー、もう限界だぜ……。一ミリも動けん」


「こんなに頭を使ったのは、生まれて初めてなんですけど……っ」


 リリム先輩とフェリス先輩は、机にグデンと上半身を預けた。


 さすがにみんな、疲労困憊(こんぱい)という感じだ。


 かくいう俺も、今日はさすがにちょっと疲れた。


 難しい書類を読み込み、小さい文字を追い続けていたので、目がシパシパしている。

 おそらくは眼精疲労というやつだ。

 家に帰ったらゆっくり素振りをして、体の疲れを取るとしよう。


「ふぅー……」


 椅子から立ち上がり、グーッと体を上に伸ばしていると、


「アレンくん、服が乱れているわよ?」


 いつの間にか横に立っていた会長が、俺の服の(えり)を正し――。


「あっ、すみませ……ん?」


 それと同時、制服の内ポケットにナニカがスッと入れられた。


「会長……?」


「しーっ」


 彼女は人差し指を口に当てながら、器用に左眼でウィンクをする。

 どうやらこれは、俺だけに伝えたいことのようだ。


「さて、今日はこれにて解散! みんな本当にお疲れ様、また明日もよろしくね!」


 会長の号令で本日の生徒会はお開きとなり、みんなそれぞれの帰路に就いた。


 その後、自分たちの寮に帰った俺とリアは、それぞれ手洗いうがいをサッと済ませ、リビングに移動する。


「ねぇアレン、今日の晩御飯は何がいい?」


「うーん、そうだな……。牛とか豚を使った、がっつり系のメニューだと嬉しいかも」


「オッケー、任せてちょうだい」


「いつもありがとな」


 そんなやり取りをしつつ、俺はさりげなく自室へ。

 きちんと部屋の鍵を閉め、制服の内ポケットを調べてみると……中から、小さく折りたたまれた手紙が出てきた。


(会長って、こういうの好きだよなぁ)


 四つ折りにされた手紙を広げるとそこには、会長の可愛らしい丸文字で、こう書かれてあった。


 アレンくんへ

 今夜二十一時、一人で生徒会室に来てください。

 シィ=アークストリア


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