桜の国チェリンと七聖剣【百八十三】
「アレンくんは、シドーくんと真逆だネ。彼を『柔』と表現するならば、君は『剛』――とてつもない剛筋ダ! これほど密になった筋肉は、そうそう見られるものじゃなイ。君と近しい肉質を持つ剣士は……儂の記憶にただ一人だけだヨ!」
彼はカッと目を見開き、その人物について語り始める。
「その人物こそ――黒拳レイア=ラスノートと共に『千刃学院の黄金世代』を支えた絶世の美少女! その名は……その、名前、は……んン? いや、すまなイ。十年以上も前のことだから、どわすれしてしまっているようダ。まったく、年は取りたくないものだネ……」
「絶世の美少女……その方は、女性だったんですか?」
とてつもない剛筋の持ち主と聞いて、てっきり男性かと思っていた。
「あぁ、小柄な体躯の可憐な乙女だったヨ。その二つ名は『鉄血』! 剣王祭優勝後、突如として表舞台から姿を消した謎の多い剣士サ!」
ハプ博士は鼻息を荒くしながら、熱く語り始める。
「しかし……あの頃の千刃学院は、なんというか『異常』だったネ! 黄金世代を支えた三人の女剣士は、全員素手で戦うんだヨ! 剣術学院にもかかわらず、誰も剣を使わないものだから、当時はちょっとした『無刀流ブーム』が起きたものダ!」
それから彼は、千刃学院と氷王学院の因縁の歴史・裏千刃祭などの無茶苦茶なイベントの沿革・黄金世代の逸話などなど、たくさんのことを話してくれた。
聞けば、彼は千刃学院のOBらしく。七十年ほど前に卒業した後、自身の剣才に限界を見たため、医学の道へ転身したそうだ。
その後、話がいい感じに落ち着いてきたところで、彼は「ふぅ」と呼吸を落ち着けた。
「本来ならば、アレンくんの体をじっくり調べさせてもらえるよう、二十四時間びっちりと張り付いて、全身全霊のお願いするところなのだが……今回はやめておくことにするヨ」
「えっと……どうしてでしょうか?」
ちょっと意外だった。
好奇心旺盛なこの人ならば、二十四時間と言わず、一年中でも張り付いて来そうなものなのに……いったいどういう風の吹き回しだろうか。
「実は、とある事情があってネ。あまり深く、君とは関われないのだヨ。ふむ……せっかくだ、見せてあげよウ。千里を見通せ――<涅槃水晶>」
ハプ博士はそう言って、突然魂装を展開したのだった。