桜の国チェリンと七聖剣【百六十八】
「ば、バッカスさん……?」
俺は一瞬、自分の耳を疑った。
こんなに弱り切った状態で、二人の真装使いを相手取るなんて自殺行為にしか思えない。
すると――。
「そんなの無茶です!」
「お爺様……っ」
リアはすぐさま反対し、ローズは悲痛な面持ちで小さく首を横へ振った。
それに続けて、
「……何か、策はあるんですか?」
「バッカスのおっさん、もしかして死ぬ気じゃねぇだろうな!?」
「一人で戦うメリット、ないと思うんですけど……?」
会長は真剣な表情で質問を投げ、リリム先輩は語気を荒げ、フェリス先輩は眉尻を下げる。
そんな俺たちの問い掛けに対し――バッカスさんは明確な回答を返さず、ただいつものように笑って見せた。
「ばらららら! さぁほれ、早くあの空飛ぶ奇妙なカラクリに乗ってここから離脱せい。なぁに心配はいらんぞ。『世界最強の剣士』の名に懸けて、全員無事にここから逃がしてやるからのぅ!」
彼はそう言って、遥か後方に停めてある飛空機を指差した。
「「「「「「……っ」」」」」」
決死の覚悟を見せられた俺たちは、思わず言葉を失ってしまう。
そうして誰も彼もが押し黙る中、ローズだけがゆっくりと動き出した。
「……お爺様」
「ん、どうしたんじゃ?」
「今まで……本当に……ありがとう、ございました……っ」
彼女は声を震わせながら、深く深く頭を下げる。
「うむ、達者でな」
バッカスさんは、そんなローズの頭を愛おしそうに優しく撫ぜた。
「はい……。さようなら……っ」
大粒の涙が零れ落ち、別れの言葉が紡がれる。
「――みんな、行こう」
ローズは短くそう呟き、飛空機のもとへ駆け出した。
「……バッカスさん、いつかまた剣術を教えてください」
俺は強引に『次の約束』を取り付け、
「今度は……今度、は……一緒にお酒を呑みましょう、ね……っ」
リアは必死に涙をこらえながら『次の酒盛り』のことを話し、
「――この御恩は一生忘れません」
会長は丁寧に腰を折り、
「おっさん……、ぐす……っ。いつかどこかでまた会おうぜ……ッ! 約束だかんな!」
リリム先輩は鼻水をすすりながらそう叫び、
「ありがとうなんですけど……っ」
フェリス先輩は下唇を噛みながら、感謝の言葉を告げた。
俺たちはみんな、それぞれの言葉でそれぞれのやり方でバッカスさんとの別れを済ませ――飛空機のもとへ走り出す。
「ばらら、ローズは本当にいい友達を持ったのぅ……。これなら心置きなく逝けるわい」
心の底から嬉しそうに笑った彼は、血の気のない筋肉を無理やりに膨張させ、絶望的な戦いに身を投じるのだった。
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