桜の国チェリンと七聖剣【百六十二】
「――はっはぁ゛、ぶち殺してやるぜぇ゛!」
闇の影を展開した俺は、その鋭利な闇で鯨の群れを引き裂き、フォンとの距離を詰めていく。
厄介な鯨餅と弾鯨は、もはや完全に攻略した。
「そぉら八の太刀――八咫烏ッ!」
八つに分かれた黒の斬撃は、目の前の肉を八つ裂きにすべく牙を剥く。
「――『餅』と『弾』を捌いた程度で、いい気になってくれるな」
「なん、だと……ッ!?」
音速を超えた俺の攻撃は、小太刀と盾によって完璧に防がれた。
そして――八咫烏を放った直後に生まれるわずかな隙、刹那にも満たないその空白をフォンは見逃さない。
「正心流――正連の斬ッ!」
まるで機械のように正確無比な連撃が、防ぎにくく避けづらい部位へ殺到した。
「ぐ……っ」
目にも留まらぬ斬撃の嵐が、ジワリジワリと俺の体を削っていく。
奴の剣術は、とにかく『緻密』の一言。奇を衒ったところや飾り気などは微塵も存在せず、ただただ実利のみを追い求めた『基本の剣』。
言うならば、教本に載っている『聖騎士の剣術』を極めたようなものだ。
(さすがにこれは体勢が悪ぃな……ッ)
俺は大きく後ろへ跳び下がり、闇での回復を優先させる。
「ふっ、どうした。接近戦に自信があったんじゃないのか? 噂に聞くロードル家の闇とは、この程度のものなのか?」
「くくっ、安心しろぃ……まだまだこっからだッ!」
俺は内に秘めた霊力を解放し、再びフォンとの距離を詰めた。
その後、勝負は激化の一途をたどる。
「ハァアアアアア゛ア゛ア゛ア゛……ッ!」
「――甘い!」
戦況はわずかに……いや、完全にこちらが押されていた。
フォン=マスタングという男は、想像を絶する強さを誇っていたのだ。
驚くべきは、その防御力。
あらゆる状況に対応可能な真装<浄罪の砂鯨>、小太刀と盾による隙のない剣術。
この組み合わせは、まさに鉄壁と呼べる代物だった。
黒剣・闇の斬撃・体術、こちらの攻撃は奴に全く通用せず、一合二合三合と剣をぶつけるたび、俺の体には生々しい傷が増えていく。
しかしそれでも――愉しかった。
「ぎゃっはははは……ッ! すげぇ、こいつはすげぇぜ! こんなに強ェやつとやるのは初めてだ!」
奴との剣戟には、心躍るものがあった。
「正心流――正突の斬ッ!」
フォンの突きが左肩を貫き、焼けるような痛みが走った。
「いいねぇ゛、いいねぇ゛! 鋭い突きだァ!」
俺は肩を貫かれたまま大きく一歩踏み込み、天高く振り上げた黒剣を力いっぱい振り下ろす。
しかしその一撃は、奴の盾によって防がれてしまった。
「この……近寄るな!」
強烈な蹴りが脇腹へ突き刺さり、俺は大きく後ろへ吹き飛ばされる。
「くくっ、さすがは天下の七聖剣様だ。剣術・真装に続いて、身体能力まで申し分ねぇなぁ……!」
押されているのも、斬られているのも、蹴り飛ばされているのも俺の方だ。
(だが、なんでだろうなぁ……。これっぽっちも負ける気がしねェ゛……!)
(……おかしい。今主導権を握っているのは、確実にこちらのはずだ……。それなのに何故、何故私は……アレン=ロードルという剣士にこれほどの恐怖を感じているのだ……ッ!?)
フォンの表情からは、徐々に余裕の色が消えていった。
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