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桜の国チェリンと七聖剣【百六十一】


「聖騎士の誇る『七聖剣』様が、果たしてどれほどのもんなのか……。ちょっくら見させてもらおうじゃねぇかぁ゛!」


 俺は力強く地面を蹴り付け、フォンとの距離を詰めるべく動き出した。


「馬鹿正直に突っ込んでくるとは……愚かの極み。――鯨餅(くじらもち)


 空を泳ぐ数多の砂鯨(すなくじら)が行く手を阻む。


「こんな砂屑、足止めにもならねぇ゛よ!」


 俺は黒剣を軽く振るい、目の前の二十匹を薙ぎ払った。


 すると次の瞬間、


「――ただの砂と(あなど)ったな?」


「なっ!?」


 砂鯨は強い粘性を持った金色の流砂と化し、俺の全身に纏わり付いてきた。


(これ、は……なんて重量だ……ッ)


 体に付着した砂は、バケツ一杯分にも満たない。

 それにもかかわらず、まるで全身が鉛になったかのように重かった。


 砂粒一つ一つが、通常では考えられないほどの質量を誇っているのだ。


(なるほど、そういう(・・・・)能力(・・)か……)


 浄罪の砂鯨。その本質は『砂の操作』ではなく、『砂の性質変化』だったらしい。

 この鯨餅(くじらもち)は、砂に『重量』と『粘性』を付け加えたもの。

 おそらくこの他にも、様々な性質変化が可能と見て間違いないだろう。


「相当な重さだろう? 私の霊力をたっぷりと吸い込んだ特別製の砂だからな。さぁ、次の一手と行こうか――弾鯨(たまくじら)


 フォンが小太刀を振り下ろせば――百匹を越える砂鯨の軍勢が、凄まじい速度でこちらへ殺到した。


「うざってぇ゛……!」


 俺はすぐさま黒剣をもって、迫りくる砂鯨を迎撃していく。

 しかし、先ほどと同様に鯨は斬った先から流砂と化し、こちらの四肢へ纏わり付いてくる。


(この数、捌き切れねぇ……ッ)


 そうして俺の動きが鈍ってきたところで、


「――さて、少し弾数を増やそうか」


 フォンは新たな砂鯨を生み出し、それらを一気に弾鯨として解き放った。


「う、ぉお゛お゛お゛お゛……!」


 必死に黒剣を振るったが、これはもはや気合でどうにかなる物量ではない。


「~~ッ」


 まるで豪雨のような砂鯨の大群が、俺の全身を呑み込んだ。

 鯨の頭部に生えた鋭い角は、濃密な闇の衣を貫通し、少なくないダメージを与えてくる。


「……てめぇ゛。正義だなんだと(のたま)っている割には、ネチネチネチネチと陰湿な攻撃をしてきやがるじゃねぇか……」


 全身に及ぶ裂傷を負ったが、戦闘継続になんら支障はない。

 ゼオンの闇には強力な回復能力がある。この程度の傷ならば、十秒と経たないうちに完治するだろう。


「……呆れ果てた丈夫さだな。私の弾鯨は、分厚い鉄板に風穴を開けるんだぞ?」


 奴は小さくため息をつきながら、静かに首を横へ振った。


「仕方がない。それでは、もう一歩(・・・・)踏み込もう(・・・・・)()。――大砂爆(だいさばく)


 フォンが左手の盾へ身を隠した直後、


「おいおぃ゛冗談だろ……!?」


 俺の全身に纏わり付いた砂が、眩い光を放ちだした。


 そして――とてつもない大爆発が巻き起こる。


 視界が真っ白に染まり、けたたましい轟音が鼓膜を打ち、強烈な衝撃波が体を襲った。


(くそが……。なんて威力をしていやがる……ッ)


 ゼロ距離からの大爆発、さすがに相当なダメージを負ってしまった。

 俺はひとまず舞い上がった砂煙に身を隠しながら、傷の回復に専念する。


 すると――。


「これは持論なのだが……。戦闘とはチェスのようなものだ。敵の指した手に対し、的確な返しをしていく。そうして正着の一手を積み重ねることによって、積みの盤面(チェックメイト)を作り出す。これは正義にも通ずるところがあるな。日々コツコツと小さな正義を為すことによって、それがいつの日か大きな正義へ繋がるのだ」


 フォンは淡々とした口調で、わけのわからないことを語った。

 どうやらこいつもディールみたく、頭のおかしいところがあるらしい。


「ふぅ、今のは効いたぜぇ……」


 大爆発のダメージから完全回復を成し遂げた俺は、再び奴の前に姿を晒した。


「あの攻撃を受けて、まさか五体満足でいるとはな……。どうやら少しばかり、出力を上げる必要がありそうだ」


 フォンは眉根を吊り上げ、鋭く目を尖らせた。

 その瞳は真っ直ぐこちらだけを見つめており、油断の色はどこにもない。


(浄罪の砂鯨は確かに厄介な能力だが、それ以上に奴の戦い方が面倒くせぇ゛……)


 防御から足止めへ、足止めから反撃へ、反撃から大技へ。

 フォンの行動一つ一つは、全て『次の一手』へと繋がっていた。


「くくっ、こいつは久々に壊し甲斐のある玩具(おもちゃ)を見つけたぜぇ……! ――闇の影(ダーク・シャドウ)ッ!」


 俺はニ十本の鋭利な闇を展開し、攻撃態勢を整えた。

 これだけの数があれば、鯨餅を捌くには十分だろう。


「ほぅ、遠隔操作の可能な闇の斬撃か……。ドドリエルの暗黒の影(ダーク・シャドウ)とよく似ているな」


「あぁ゛、あのゴミ野郎を知ってんのか?」


「過去に少しだけ、共同で仕事をしていた時期があってな。アレ(・・)は本当に気持ちの悪い男だったぞ。しかし、ドドリエルの次がディールとは……。我ながら、『パートナー運』に恵まれないものだ」


 フォンは割と深刻な表情で、大きなため息をついた。


「さて、つまらん世間話はここまでにしておくとしよう。私にはまだ『次の仕事』があるんでな」


 奴はそう言って、多数の砂鯨を生み出したのだった。


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