桜の国チェリンと七聖剣【百五十四】
「――おい、クソガキ。先に言っておくが、これ以上の援護は期待するなよ。霊核は――特に俺は、外界にほとんど干渉できねぇ。実際今のしょっぺぇ攻撃をするだけで、かなりの力をもっていかれちまった」
「そうか……。いや、助かったよ」
もしゼオンが手を出さなければ、俺はあのままやられていただろう。
「今すぐにでもその体を奪って、目の前のカスを捻り潰してぇところだが……。うざってぇことに、もう一匹のゴミが常にこっちを警戒していやがる……。これじゃ表に出た瞬間、『初期硬直』を狙われて終わりだ」
「『もう一匹のゴミ』……?」
チラリとフォンの方へ視線を向ければ――ほんの一瞬だけ、しっかりと目があった。
奴はバッカス=バレンシアという強大な剣士を相手にしながら、何故か常にこちらへ意識を向けていた。
「腹立たしいことこの上ねぇが……ここは一旦退くぞ。今なら毒使いのカスも素早く動けねぇはずだ。『闇の足場』を作って、さっさと海を渡れ」
ゼオンは強い口調で、この場からすぐに離れるよう言ってきたが……。
「悪いけど、それはできない」
「……あ゛?」
「リアたちを置いていくわけにはいかない。俺はここに残って、ディールたちを倒す」
「おいおぃ゛……。それだけ一方的にやられて、まだ互いの実力差もわかんねぇのか? まともに魂装すら使えねぇ半人前が、『成熟した真装使い』に勝てるわけねぇだろうが! こんなくだらねぇ理屈、尻の青いガキでもわかるぞ、えぇ゛!?」
奴の怒声が、胸の奥底から頭の天辺まで響き渡る。
「てめぇがここに残ったところで、『結果』はなんにも変わりゃしねぇ――『全滅』だ!」
「……だろうな」
ゼオンの言うことは、何も間違っちゃいない。
このままいけば、俺たちはきっと皆殺しにされるだろう。
「わかってんのなら、さっさと行動に移せ! 後ろで転がっている足手まといは捨てて、今すぐこの場から離脱――」
「――でも、『可能性』はゼロじゃない」
「…………あ゛?」
「俺の実力じゃ、ディールには勝てない。だけど、『時間稼ぎ』ぐらいならできる。そうすれば、ほら……誰かが助けに来てくれるかもしれないだろ? レイア先生とか、他の七聖剣とか、さ」
「てめぇは真性の馬鹿か!? この絶海の孤島に、増援なんざ来るわけねぇだろうが!」
「……わかっているよ」
自分がどれだけ非現実的で、夢物語のようなことを言っているのかは、ちゃんとわかっているつもりだ。
「だけど、可能性がゼロじゃないなら……。ほんのわずかでも、リアたちが生き残れる道があるのなら……その未来を掴むために、俺は剣を握る」
十数億年と磨き続けたこの剣術は、大切な人たちを守るためにあるんだ。
もしここで尻尾を巻いて逃げたら、たとえ命を拾うことはできても、『アレン=ロードルという剣士』は確実に死ぬ。
「ふざけるな、よ……ッ。いったい、どれだけ……時間……費や――てめぇの……。誰が……爺の、ボタン……」
憤怒に満ちた奴の言葉は、ひどく途切れ途切れに聞こえた。
「……悪いな、ゼオン。どうやらもう、お前と話すのも難しそう、だ……」
意識が……薄い。
視界がチカチカと明滅を始め、徐々に耳が遠くなってきた。
霊力の欠乏か、はたまた血を流し過ぎたのか。
いや、きっとその両方だろう。
「こ、の、クソガキ……ッ! ――いいか、いざとなったら死ぬ気で『道』を繋げろ! 自分の『根源』を――」
ゼオンのとてつもない怒鳴り声は――途中で切れてしまった。
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