桜の国チェリンと七聖剣【百四十二】
(向こうが遠距離型の大技を放つつもりなら、冥轟で迎え撃つだけだ……!)
俺は重心を落とし、静かに呼吸を整えていく。
「……おや、避けないんですかぃ? 旦那の足なら、あっしの大技なんて軽く回避できそうなもんですが……」
こちらが迎撃体勢を取ったことに対し、ディールは小首を傾げた。
「見え透いた芝居はよせ。お前の狙いはバレバレだ」
「あらら、さすがはアレンの旦那だぁ。視野がお広いですねぇ……」
ディールはそう言って、わざとらしくリアたちの方へ視線を向けた。
「くく、それじゃ行きますよぉ。お優しい旦那なら、まさか避けたりしないですよねぇ!? ――毒龍の大顎ッ!」
奴が禍々しい魂装を薙いだ次の瞬間、巨大な毒の龍が凄まじい速度で放たれた。
視界はおどろおどろしい『紫』一色に染まり、とんでもない『圧』が全身を襲う。
(確かにデカい。出力もかなりのものだが……)
これぐらいならば、冥轟で十分に相殺可能な一撃だ。
(……おかしい)
あの性格の捻じ曲がったディールが、わざわざ俺とリアたちを一直線上になるよう調整してまで放つ一撃が……これか?
(……いや、そんなわけないだろう)
ここまでの戦闘と会話から、奴の底意地の悪さを信用している俺は――冥轟での迎撃を中断し、迫りくる毒の龍を注意深く観察した。




