桜の国チェリンと七聖剣【百三十八】
「……ッ」
四肢に裂傷を負ったディールは、眉根を歪めながら大きく後ろへ跳び下がった。それと同時に、紫色の液体が傷口を覆っていく。
(あれは……猛毒の裏転か!?)
<英雄殺しの劇毒>が持つ、高速回復能力だ。
「――させるかぁ!」
回復する隙を与えないよう、俺は烈火の如く攻め立てた。
「ハァッ!」
大上段からの斬り下ろし、
「ぐッ!?」
奴は水平に剣を構えて防いだ。
吐息すら聞こえる至近距離、互いの視線が交錯する。
(……なるほどな)
ディールの四肢に目を向ければ、そこには先の十六連撃で刻んだ傷が残っていた。
奴は防御に集中するため、治療を中断した――いや、中断せざるを得なかったんだ。
「<英雄殺しの劇毒>。応用力の高い強力な能力だが、その分扱いがかなり難しいみたいだな」
「……っ」
おそらく図星だったのだろう。
奴はほんの一瞬だけ、奥歯を噛み締めた。
(考えてみれば、当然のことだ)
コンマ数秒を競う殺し合いの最中、この世に存在しない様々な毒を生成しながら、それを適切な用途・タイミングで攻撃・防御・回復に割り振る。
口で言うのは簡単だが、そう簡単にやれることじゃない。




