桜の国チェリンと七聖剣【百二十三】
「えぇ、もちろんです……!」
俺は濃密な闇を生み出し、それをリリム先輩とフェリス先輩の負傷箇所に集中させる。
だが――二人の体に浮かんだ紫色の紋様は、一向に消えることはなかった。
それどころか毒にやられた肌は、じわじわと正常な組織を侵食していく。
(ど、どういうことだ!?)
焦った俺が闇の出力を引き上げたそのとき、
「くくく、いやぁ残念残念!」
醜悪な笑みを浮かべたディールが、心の底から愉しそうに嗤った。
「<英雄殺しの劇毒>が生成するのは、全て『ウイルス性の猛毒』でしてねぇ……。たとえどれだけ優れた『回復能力』があろうとも、絶対に治らないんでさぁ!」
「……っ」
ゼオンの闇はほぼ万能だが、病に関してはその効果を発揮しない。
「あ、ぐぅ……が……っ」
「こんなの……我慢できないんですけ、ど……」
リリム先輩とフェリス先輩は、息も絶え絶えになりながら、必死に痛みを噛み殺していた。
(くそ、どうすれば二人を助けられるんだ……ッ!?)
俺が強く拳を握り締めた次の瞬間、
「――随分と余裕そうじゃのぅ?」
ディールの背後を取ったバッカスさんが、とてつもない殺気を放った。




