桜の国チェリンと七聖剣【八十三】
「――こんばんは、会長」
俺は軽く咳払いをしてから、通話を終えた彼女へ声を掛けた。
「あら、アレンくん。こんな夜遅くにどうしたのかしら?」
一瞬目を見開いた会長は、すぐにいつもの優しい表情を浮かべる。
「なんだか寝付きが悪かったので、軽く散歩でもしようかと思いまして」
実際のところ、寝る前に小便を済ませに来ただけなのだが……。
それをそのまま伝えるのは、なんだか少し気が引けた。
「そっか、それはいい案かもしれないわね」
彼女は可愛らしく腕を組みながら、「うんうん」と頷いた後、
「――でも、夜更かししちゃダメよ? なんといっても明日は、桜華一刀流の奥義を教えてもらう大事な一日なんだから」
人差し指をピンと立て、『お姉さん』らしい注意をした。
「あはは、了解です。少し外の空気を吸ったら、すぐに部屋へ戻りますね」
「ふふっ、それなら安心ね」
そんな風に軽い雑談を交えたところで、いよいよ本題へ入っていく。
「ところで会長、今の電話は?」
「あぁ……うん、お父さんからの連絡」
「ロディスさんから?」
長年政府の要職を務めてきた、アークストリア家の現当主ロディス=アークストリア。
確か彼は、天子様やレイア先生とともに各国の首脳陣が集う極秘の会談へ出席していたはずだ。




