桜の国チェリンと七聖剣【八十一】
アークストリア家の屋敷に到着した俺たちは、すぐに大浴場へ入って今日一日の疲れを洗い流し、みんなで食堂に集まって夜ごはんを囲んだ。
腕利きの料理人が運んできてくれたのは、炊き立てのお米・しっかりと焼かれたお肉・新鮮な野菜のサラダ・温かいコンソメスープ。
素材のよさを活かした、シンプルかつ栄養価の高いものばかりだ。
そうしてしっかり栄養を摂った後は、それぞれ各自の部屋へ戻っていく。
(いつもなら一つの部屋に集まって、雑談に花を咲かせたり、ちょっとしたレクリエーションを楽しむんだけれど……)
さすがに今日はそういうわけにもいかない。
なんといっても明日は、桜華一刀流奥義――鏡桜斬を教えてもらうのだ。
バッカスさんに言われた通り、ちゃんと体を休めなければならない。
「――さて、そろそろ寝るか」
三階の自室に戻った俺は、チラリと時計へ目を向ける。
時刻は夜の十時。
いつもより少し早いけど、まぁいいだろう。
「っと、その前にトイレへ行っておかないとな」
別に、それほどもよおしているわけじゃないが……。
変な時間に起きてしまわないためにも、今のうちに済ましておこう。
「トイレは確か……南の方だったな」
俺はゆっくりと自室の扉を開き、みんなを起こしてしまわないよう忍び足で移動していく。
すると、
「……えぇ、…………うん、わかったわ」
鈴を転がしたような美しい女性の声が、前方から聞こえてきた。
(この声は……会長?)
なにやら元気がないように聞こえるが、いったい誰と話しているのだろうか?




