桜の国チェリンと七聖剣【七十六】
その後、ローズと別れた俺は、本来の目的である素振りを行う。
「――ふっ、はっ、せいっ!」
剣を振り上げ、振り下ろす。
十数億年と繰り返した反復動作。
俺にとってこれは、もはや呼吸のようなものだ。
一振りごとに思考が晴れ、気持ちが落ち着いていくのがわかる。
(しかし、鬼神の如き強さを誇る友か……)
あの桜華一刀流の開祖、ロックス=バレンシアでさえ敵わない化物。
(俺の中にいる化物とどっちが強いんだろうな……)
一人の剣士として、これはとても興味深い話だ。
ゼオンの『強み』は大きく分けて二つ、圧倒的な出力と人の域を越えた身体能力。
(分厚い闇を纏ったあいつは、『硬い』なんてものじゃないからな……)
生半可な斬撃では薄皮一枚として斬れないどころか、剣の方が叩き折られてしまう。
(そして何より、人知を超越した身体能力)
ほんの一瞬でも気を抜けば、あっという間に距離を詰められ――そのまま痛烈な一撃を叩き込まれてしまう。
(……うん。やっぱり、ゼオンが負けるところなんて想像できないな……)
あいつは粗暴で乱暴で凶暴で、いろいろと問題があるけれど……。
その圧倒的な『強さ』には、正直憧れてしまう。
(もっともっと修業して、いつかゼオンに勝てるぐらいの剣士になろう……!)
そうすればリア・ローズ・会長、母さんやポーラさん――俺の大切な人を守れるはずだ。
俺はそんなことを考えながら、一時間ほど素振りを続けたのだった。




