桜の国チェリンと七聖剣【七十五】
ローズの話をしっかりと反芻した俺は、一つ気になったことを聞いてみる。
「ところで……ロックスさんと彼が取り込んだ桜はどうなったんだ?」
なにせ二千年もの時を生きた桜華一刀流の開祖様だ。
もしかしたら、今もまだ生きているかもしれない。
(そして接ぎの契り……)
今なおこれが有効ならば、生きた桜はどこかに存在しているはずだ。
すると、
「さぁな。彼の最期については、全く記録が残されていない。ただ――『生きた桜は、今もちゃんと咲いておる』とお爺さまが言っていたな。残念ながら、詳しい場所までは教えてくれなかったが……」
ローズはそう言って、小さく首を横へ振った。
「ちなみにロックスの分厚い手記は、最後にこう結ばれていた。『――まだ見ぬ、我が子孫たちへ。桜華一刀流を正しく発展させ、いつかあの鬼神の如き友に打ち勝たんことを願う。ロックス=バレンシア』。これを見る限り、生涯でただ一度の敗北がよほど悔しかったらしい」
「あはは。負けず嫌いなところは、ローズと全く一緒だな」
俺がそんな冗談を口にすれば、
「むっ、それは褒めているのか?」
彼女は少し大袈裟に眉をひそめ、ジィッとこちらを見つめた。
『美人はどんな顔をしても美しい』というのはまさにその通りで、ちょっとむくれたローズはとても可愛らしかった。
「あぁ、もちろんだよ」
「……ならばよし」
「ふふっ、なんだそれ」
それから俺たちは、ひとしきりクスクスと笑い合った。
そうして話もお開きになる空気になってきたところで、
「――一応言っておくが、今の話はバレンシア一族だけの秘密なんだ。絶対に他言無用で頼むぞ?」
ローズは人差し指を口に添え、『しーっ』というジェスチャーを取った。
「あぁ、わかった。だけど、そんな大事なことをどうして俺なんかに……?」
俺がごく当然の質問を投げ掛けると、
「アレン、女という生き物はな。好いた男には、全てを知ってほしくなるものなんだよ」
彼女はそう言って、これまで見せたことのない大人の微笑みを見せた。
「……っ」
月明かりに照らされたその笑顔は、思わず時間を忘れて見惚れてしまうほど――美しかった。




