桜の国チェリンと七聖剣【七十四】
「接ぎの契りとはすなわち――ロックスが生きた桜の命を接ぎ、桜が彼の剣術を子孫へ接ぐことを約束したものだ」
そうしてローズは、話をまとめにかかった。
「先ほど見せた通り、私たちバレンシア一族は、左胸に桜の紋様――接ぎの刻印をもって生まれる。それが、今なお契りが有効であることを示す証拠だ。そして実際私には、物心つく前から『桜華一刀流という記憶』がある」
「そうなのか」
「あぁ。つまり桜華一刀流は、誰かに『学ぶもの』ではない。私たちバレンシア一族が、ロックスの記憶を頼りにして『再現するもの』なんだ」
彼女はそう言って、俺が最初に投げた質問に答えてくれた。
「なるほどな……」
桜華一刀流の開祖ロックス=バレンシア。
二千年もの時を生きる彼は、絶海の無人島で世にも珍しい生きた桜と出会う。
その島は波の浸食作用により、桜とともに海の底へ沈む運命だった。
それを惜しんだロックスさんは、生きた桜を霊核として取り込み、桜は体を貸してもらう宿賃として桜華一刀流の記憶を子々孫々へ接いだ。
それが今なお続く接ぎの契りであり、バレンシア一族は開祖の記憶を頼りにして桜華一刀流を『再現』しているらしい。
軽く素振りに出掛けただけのつもりが、とてつもなく壮大な話を聞いてしまった。




