桜の国チェリンと七聖剣【七十二】
「接ぎの『刻印』と『契り』か。よかったら、詳しく教えてくれないか?」
俺はローズの気遣いを無駄にしないよう、彼女が振ってくれた話を膨らませることにした。
「あぁ、もちろんだ」
ローズはコクリと頷き、話を続けていく。
「かつてロックスが出会ったとされる生きた桜は、絶海の無人島に咲いていたらしい。そしてその島は波の侵食作用によってジリジリと削られており、後百年もしないうちに海の中へ消えていく運命だった」
「……それはもったいないな」
誰にも見られず、惜しまれず、人知れず海に埋もれていく桜。
あまりにもったいない話だ。
「大の桜好きであったロックスは、当然それをよしとしなかった。彼は生きた桜に対し、『安住の地へ移してやる』と言ったそうだ」
「安住の地か……。さすがにちょっと難しいんじゃないか?」
木々について、それほど詳しいわけじゃないが、植え替えが難しいということは何度か竹爺から聞いていた。
植え替えをする前後で地質・気候・日照時間が似通っていることなど、クリアしなければならない『条件』がいくつもあるらしい。
(そのうえ、生きた桜が咲くのは周囲を海に囲まれた無人島ときている……)
とてもじゃないが、人力では不可能だろう。
「アレンの言う通り、普通の方法では到底実現不能なことだ。しかしロックスは、安住の地として自分の体を差し出すことによってこれを成し遂げた」
「じ、自分の体を……!?」
「あぁ、そうだ。彼はその生きた桜を体内に取り込み、自らの『霊核』としたのだ」




