桜の国チェリンと七聖剣【七十】
ローズの話によれば……桜華一刀流の開祖ロックス=バレンシアは、嘘か誠か二千年以上も諸国漫遊の旅を続けていたそうだ。そしてその長い旅路の果てに『生きた桜』と出会い、そこで『接ぎの契り』なるものを結んだらしい。
(じょ、情報量が多いな……っ)
いくらバレンシア家が長寿とはいえ、果たして人間が二千年もの時を生きられるのか。
そもそも生きた桜とはなんなのか、接ぎの契りとはいったいどういうものなのか。
次から次へと疑問が湧いて出た。
(これは……どこから質問すればいいんだろうか)
そうして俺がポリポリと頭を掻いていると、
「すまない。いきなりこんな無茶苦茶な話を聞かされても、到底信じられないだろう。なにせ一族の次期当主であるこの私も、過去帳の記述については疑問を抱いているぐらいだからな」
ローズは苦笑いを浮かべた後、さらに話を続けた。
「まさか人間が二千年も生きられるとは思えないし、生きた桜なんてこの目で見るまで信じられない。ただ――接ぎの契り。これについては、確実に存在すると断言できるんだ」
それから彼女は――おもむろに浴衣の帯を緩め始めた。
シュルシュルという衣擦れの音が響くに連れ、徐々に胸元が開放的になっていく。
「ろ、ローズ……何を……!?」
俺は突然の事態に目を白黒とさせながら、自分の意思とは裏腹に自然と速まっていく鼓動を抑え付けた。
すると彼女はブンブンと首を左右に振り、
「みょ、妙な勘違いはするなよ! ほ、ほら、ここ……! ここに桜の紋様が浮かび上がっているだろ……!?」
頬を赤く染めながら、少しだけ露出した左の胸元を指差したのだった。




