桜の国チェリンと七聖剣【六十八】
俺はローズを驚かさないよう、ゴホンと咳払いをしてから声を掛ける。
「――気持ちのいい夜だな。隣、いいか?」
「……アレンか。あぁ、もちろん構わないぞ」
彼女は一瞬だけ目を大きく開けた後、すぐに柔らかく微笑んだ。
ひんやりとした夜風を感じながら、俺とローズは一緒に億年桜を眺める。
「……本当に綺麗だな。時間を忘れて、ずっと見ていられそうだ」
ここから億年桜までかなりの距離があるけど、人工的な光で照らされているため、十分目視することができた。
きっと今頃あの木の根元では、夜桜を楽しむ多くの花見客で賑わっていることだろう。
「あぁ、そうだな。私もあれは世界で一番好きな花だよ……」
ローズはコクリと頷き、しみじみとそう呟く。
それからしばらくの間、俺たちは肩を並べて億年桜を楽しむ。
一分二分三分と経過したところで、彼女はこちらへ視線を向けた。
「ところで――アレンはどうしてここへ? 眠れなかったのか?」
「ん、あぁ……なんか気持ちが高ぶって、スッと寝付けなかったんだよ。気分転換にちょっと素振りでもしてこようと思ったら、たまたま偶然テラスに立つローズを見かけてって感じだ」
「ふふっ、こんな時間にまた素振りか……。お前は相変わらずだな」
彼女は呆れたような表情を浮かべ、楽しそうにクスリと笑った。
「……っ」
月明かりに照らされながら、口元に手を当てて微笑む彼女は――言い表しようもないほど美しい。
雪のように白い肌。
月の光を反射し、夜闇に浮かび上がる白銀の髪。
満開の億年桜をバックにしたその姿は、このまま額縁に収められそうなほど完成していた。
そのあまりの美しさに目を奪われた俺が、ジッとローズのことを見つめていると、
「……どうした? 私の顔に何かついているのか?」
彼女は可愛らしくコテンと小首を傾げ、自分の頬に手を当てた。
「い、いや、なんでもない……っ。――そ、そうだ! ちょっと聞きたいことがあったんだけど……いいか!?」
うっかり見惚れていたことを悟られないよう、俺はすぐさま別の話題を投げる。
「あぁ。遠慮せず、なんでも聞いてくれ」
「そ、それじゃ早速――昨日ローズが『桜華一刀流は学ぶものではない』って言っていたのが、ちょっと気になっていてな。あれはいったい、どういう意味なんだ?」




