桜の国チェリンと七聖剣【六十五】
のぞきの冤罪を晴らした後は、時間も時間だったので一旦解散することになった。
アークストリアの別荘へ向かう道中、
「秘湯『桜の雫』、本当にいいお湯だったわねぇ……。肩の凝りがすっかり取れちゃったわ」
会長はしみじみとそう呟き、肩を軽く回してみせた。
「あぁ、本当に気持ちよかったな!」
「五臓六腑に染み渡ったんですけど……!」
リリム先輩とフェリス先輩はすぐさま賛同の意を示し、
「ヴェステリアにも温泉はたくさんあるけど、こんなに体の芯から温まるものはそうないわね……。うん、なんだかお肌もスベスベになった気がするわ!」
「ふっ、そう言ってもらえると嬉しいぞ」
リアとローズもかなり上機嫌な様子だ。
「――ねぇ、アレンくんはどう? 気持ちよかった?」
会長はこちらを覗き込むようにして、そんな問いを投げ掛けた。
「そう、ですね……」
温泉自体は間違いなく、これまでで一番よかったんだけど……。
(何分、その間のイベントが強烈過ぎたんだよなぁ……)
セバスさんとバッカスさん――超一流の剣士と剣を交えたことによる、大きな肉体的疲労。
『のぞき魔』として前科者になるかどうかの危険な綱渡りをしたことによる、精神的疲労。
(プラスマイナスで言えば、正直圧倒的なマイナスだけど……)
みんなで楽しく温泉の感想を語り合っている中、一人だけ愚痴をこぼすのはあまりよくない。
「風情のある岩組の露天風呂で、とても気持ちよかったですよ。特にサウナと水風呂は最高でした」
俺はいい空気をぶち壊しにしないよう、そんな風に話を合わせたのだった。
(しかし、依然としてよくわからないな……)
先の戦いで負傷した傷、俺はそれをゼオンの闇を使って完治させた。
(だけど、バッカスさんはいったいどうやって治したんだろう?)
彼は二の太刀朧月を食らい、体の各所に太刀傷を負った。
それなのに……脱衣所で顔を合わせたときには、全ての傷が塞がっていたのだ。
(やはり、バッカスさんの魂装は回復系統と見て間違いなさそうだな……)
不治の病に侵され、二百年以上の年を重ねた体。
それなのに外見年齢は五十代半ばほどであり、純粋な身体能力では皇帝直属の四騎士を上回る。
つい先ほど負った傷を瞬時に治す治癒力、さらには『不死身のバッカス』という二つ名。
以上のことから考えれば、彼の能力は回復系統の力と見て間違いない。
(ただ一つわからないのが、あの木を生み出した能力なんだよな……)
彼は億年桜の裏手にある孤島へ行き来するため、木を生み出して橋を架けていた。
(おそらくただの回復系統じゃない。特別な『何か』あるはずだ……)
あのローズが『無敵の魂装』とまで言うほどの力だ。
きっと並一通りのものじゃないだろう。
そんな風にバッカスさんの能力に思考を巡らせながら、しばらく歩き続けていると――いつの間にか、アークストリア家の別荘へ到着していた。




