桜の国チェリンと七聖剣【六十四】
確かに俺は「なんでもする」と言ったが、
「え、えーっと……先に言っておきますけど、お金はありません」
現実的に実現不可能なことがある。
(自分で言うのもあれだが、俺はとてつもなく貧乏だ……)
宝石やブランドの鞄が欲しいと言われても、さすがにそれは難しい。
「ふふっ、大丈夫よ。私がお願いしたいのは、そういうことじゃないから」
いつもの喋り方に戻った会長は、かなり上機嫌な様子で人差し指を立てた。
「では、いったい何をすればいいんでしょうか?」
「それなんだけど……『指切り』、してもらえるかしら?」
彼女は頬を赤く染めながら、右手の小指をツッと突き出す。
「指切り、ですか……?」
「そ、そうよ。それでしっかりと約束してほしいの。私には『今後一生、嘘をつかない』って。そうしたら、アレンくんの言うこと全部信じてあげるわ」
「ほ、本当ですか!?」
そもそもリア・ローズ・会長といった大事な人に、嘘をつくことはない。
(つまりこれは、実質ノーリスクで信用してもらえるということだ!)
俺はすぐさま、彼女の細くて柔らかい小指に自分の小指を絡めた。
「――約束します。あなたには一生嘘をつきません」
会長の目を真っ直ぐ見つめながら、はっきりとそう宣言する。
「……っ。い、一生よ? 一生、私に嘘をついちゃ駄目なんだからね?」
彼女は顔を真っ赤にしながら、『一生』という言葉を強く強調した。
「もちろんですよ」
「お、お姉さんはたまに嘘をついちゃうかもしれないけど……それでもいい?」
「えぇ、問題ありません」
彼女はとても優しい人だ。
たまに小さな嘘はつくけれど、人を傷つけるような嘘は決して口にしない。
「も、もしあなたが嘘をついたら……そのときは針千本飲んでもらうからね?」
「はい、任せてください」
もしもそんな事態になれば、千本でも二千本でも飲み切るつもりだ。
「そ、そう……わかった。それじゃさっきアレンくんが話したのは、全て本当のことだって信じるわ。それと私の裸を見たことも……特別に許してあげる」
「あ、ありがとうございます!」
こうしてリア・ローズ・会長――三人の信頼を勝ち得た俺は、ようやく安堵の息をつくのだった。




