桜の国チェリンと七聖剣【六十二】
リアからとんでもない秘密を打ち明けられた俺は、思わず息を呑む。
「う、嘘を見抜く力……!?」
「えぇ、そうよ。誰にも言っちゃ駄目だからね?」
彼女はそう言って、可愛らしく微笑んだ。
(もしも本当にそんな力があるのなら、これはちょっと考える必要があるぞ……っ)
差し迫った危機としては四月一日、約一か月後に控えたリアの誕生日。
とてもとても苦労して、なんとか自然な会話の中で聞き出したこの日――俺はサプライズとして、誕生日プレゼントを贈るつもりだった。
(リアが本当に嘘を見抜けるなら、細心の注意を払う必要があるな……)
彼女に「何か隠しごとでもあるの?」と聞かれたら、その時点でアウトだ。
まずは俺が何かを企んでいることがバレ、それから芋づる式にどんどん計画が明るみになっていき、いずれは誕生日のサプライズプレゼントまでたどり着くだろう。
(とにかく不審な態度を取らないよう、気を付けないといけないな……)
俺がそんな風に警戒を強めていると、
「ちなみに……お父さんの話によれば、この力は原初の龍王を封印した女性。つまりは私の遠い御先祖様が持っていた、『特別な力』の一つなんだって。ヴェステリア一族の女系は、みんな何かしらの不思議な力を持って生まれるそうよ?」
リアは一歩踏み込んだ話を教えてくれた。
「へぇ、そうなのか……」
俺はかつてそれと似たような話を聞いたことがある。
あれはそう、一月の初旬。
神聖ローネリア帝国のベリオス城に侵入し、神託の十三騎士フー=ルドラスと遭遇したときのことだ。
互いの思惑が一致した俺とフーは、同じ机を囲んで一緒に紅茶を飲んだ。
(しかし、敵国の中心で最高幹部と一緒に紅茶か……)
今思えば、ずいぶんと奇妙な経験をしたような気がする。
そしてその際、彼はヴェステリア王国の歴史を語った。
今から七百年前――突如として出現した原初の龍王は、その圧倒的な力でヴェステリア全土を焼いた。
そのとき立ち上がったのは、遠い異国で生まれたリアのご先祖様。
彼女はその血に宿る特殊な力を使い、原初の龍王を自らの胎内へ封印した。
それは今日に至るまでヴェステリア王家に脈々と引き継がれていき、現在はリア=ヴェステリアの霊核となっている――という話だ。
リアとフーの話を照らし合わせれば、『ヴェステリアの女系』が不思議な力を持つのは間違いなさそうだ。
つまり――彼女が『嘘を見抜ける』というのも、きっと本当のことなのだろう。




