桜の国チェリンと七聖剣【六十】
それから俺は、事の顛末を話した。
突如男湯に姿を現したセバスさんは、会長の裸を見るために木塀を登り始めた。バッカスさんはそれに待ったを掛け――ローズの裸を見せるわけにはいかないし、女湯をのぞくのは自分であると言い放つ。
そうして二人は『どちらが女湯をのぞくか』を巡り、一触即発の状態になってしまう。
当然のぞきという最低な行為を見過ごせるわけもなく、俺はすぐに第三勢力として立ち上がった。
その後、魂装の使用禁止・得物であるモップが折れたら負けというルールで戦闘が開始。
途中までは、かなり有利な展開だったのだが……。
セバスさんとバッカスさんが手を組んでからは、一気に窮地へと追いやられた。
二人の苛烈な攻撃を受けた俺は、大きく後ろへ吹き飛ばされ――木塀に衝突、意図せずして女湯へ突っ込んでしまったのだ。
「――こういうわけで、決して下心や邪な考えがあったわけじゃない! どうか信じてほしい、アレは本当に不慮の事故なんだよ!」
そうして俺が嘘偽りのない真実を口にすれば、
「……お爺さま。その年になってもまだのぞきを続けているのですか?」
ローズはそう言って、バッカスさんをジロリと睨み付けた。
「……はて? どうじゃったかのぅ……。最近は年のせいか、物忘れが激しくてなぁ……。あまりよく覚えとらんわぃ」
おそらく大事な孫娘には、嘘をつきたくなかったのだろう。
彼は年齢を言い訳にしながら、ポリポリと頭を掻いてとぼけてみせた。
「はぁ……状況は理解した。アレン、お前の言い分を全面的に信じよう。それと――すまないな……。どうやらうちのお爺さまが、また大きな迷惑を掛けてしまったようだ」
「ろ、ローズ……!」
俺は感激のあまり、彼女の両手をギュッと握った。
「ありがとう! 信じてくれて……本当にありがとう!」
「あ、あぁ、わかった。だけど、その……ちょ、ちょっと近いぞ……っ」
面と向かって感謝の言葉を伝えられたからか、ローズの顔はみるみるうちに赤く染まっていった。
(とにかく、やった……やったぞ……!)
残すは後二人――リアと会長に信じてもらえれば、俺の容疑は全て晴れるのだ。




