桜の国チェリンと七聖剣【五十九】
その後、俺たちは一旦脱衣所へ戻り、ちゃんと服を着てから話し合うことになった。
(さすがにあんな状態じゃ、まともに話をできないからな……)
俺だって、一応男だ。
(リア・ローズ・会長という絶世の美少女三人が、裸同然の姿で目の前にいたら……とてもじゃないけど、平静を保っていられない)
それに彼女たちだって、異性と裸で向き合うのには強い抵抗があるはずだ。
そういうわけで俺たちは一度解散し――十七時三十分現在、桜の雫の正面に集合していた。
ゆったりとした浴衣を身に纏ったリアたちは、怒っているような・恥ずかしがっているような・困っているような――なんとも言えない複雑な表情を浮かべている。
その頬がわずかに赤く染まっているのは、きっと『湯上りだから』というわけじゃないだろう。
(さて、どうやって話を切り出そうかな……)
俺がそんなことを考えていると、
「まさか私たちがサウナに入っている間、そんな面白いことがあったとは……。春合宿一番のハプニングを逃すなんて、リリム=ツオリーネ一生の不覚……っ」
「恥ずかしがるシィの顔、めちゃくちゃ見たかったんですけど……っ」
リリム先輩とフェリス先輩は、がっくりと肩を落とした。
あのとき二人の姿が見えなかったのは、サウナ室に入っていたからだったようだ。
(これは『不幸中の幸い』というやつだな……)
もしもこの意地悪な先輩たちが、あの場に居合わせていたら……。
おそらく事態はもっと複雑で、大変なものになっていただろう。
(まぁとにかく、ここからが正念場だな……っ)
俺が大きく息を吐き出し、気合を入れたそのとき、
「ぷはぁ……っ。湯上がりの一杯は、やはり格別だのぅ……!」
主犯のバッカスさんが豪快に酒瓶をあおった。
彼は桜の木に体を預けながら、ほろ酔い状態を楽しんでいる。
(全く、この人は……っ)
その『我関せず』と言わんばかりの態度には、さすがにかなりむかっ腹が立った。
(……いや。今はそれより、ちゃんと話をしないとな……)
覚悟を決め、真っ直ぐリアたちの目を見つめる。
「リア・ローズ・会長、みんなの裸を見てしまったことは……ごめん。謝ってどうこうなることじゃないけど、本当に悪いと思っている。――だけど、信じてほしい。あれは本当に不慮の事故なんだ。決して、女湯をのぞこうとしたわけじゃないんだよ……っ」
そうして俺は、あの事件の全貌を語っていく。




