桜の国チェリンと七聖剣【五十三】
皇帝直属の四騎士、セバス=チャンドラー。
かつて世界最強の剣士と謳われた、バッカス=バレンシア。
世界屈指の剣豪は、ただ女湯をのぞきたいがために手を組み、
「――はぁああああ!」
「ぬぉおおおお!」
息を揃えて苛烈な攻撃を繰り出した。
「ぐ……っ」
俺はまるで嵐のような連撃をときに躱し、ときにいなし、ときに防御し――なんとか耐え抜く。
「さすがは人外、とんでもない粘りだな……っ。しかし、これならどうだ? 絶剣――七虹連斬ッ!」
セバスさんがモップを勢いよく振り切れば、七つもの斬撃が空を駆けた。
「くっ、一の太刀――飛影・七連!」
俺は咄嗟の判断で、七連続の飛ぶ斬撃を放つ。
コンマ数秒後――飛影・七連と七虹連斬は激しくぶつかり合い、凄まじい衝撃波が吹き荒れた。
(……よかった。なんとか無事に相殺できたようだな)
そうしてホッと胸を撫で下ろした次の瞬間、
「絶剣――紫突ッ!」
「桜華一刀流――桜閃ッ!」
セバスさんとバッカスさんは間髪を容れず、これまでで最も速い――まさに『神速』とも呼べる突きを繰り出した。
(は、速っ!? 防御、モップが折れ……回避、無理だ……っ)
防御不能、回避不可。絶体絶命の危機的状況だ。
「――取った、僕らの勝ちだ!」
「儂らを同時に相手取り、よくぞここまで粘ったのぅ! その研ぎ澄まされた剣術、まこと天晴じゃ!」
勝利を確信した二人は、口々に称賛の言葉を述べた。
(……本当はもう少し『仕込み』たかったけど、この状況じゃ仕方ないよな)
俺は心の中でため息をつき、『奥の手』を切ることにした。
「二の太刀――朧月」
そうしてモップをサッと横へ薙げば、予め空間に仕込んでおいた斬撃が解放された。
その斬撃はまた別の斬撃のトリガーとなり、それはどんどん連鎖していく。
その結果、
「なん、だと……!?」
「こ、これは……っ!?」
四方八方――張り巡らされた『斬撃の結界』が、セバスさんとバッカスさんへ牙を剥いたのだった。




