桜の国チェリンと七聖剣【五十二】
セバスさんから共闘の提案を受けたバッカスさんは、
「なんじゃと……?」
眉根をグッと吊り上げ、しかめ面を浮かべる。
誰の目にも明らかな強い拒絶反応だ。
「……冷静に考えてください。僕かあなたが勝てば、それぞれの悲願は成就する。しかし、この『理性の化物』が――アレンが勝てば、誰も得をしない! 誰も女湯をのぞけない! 誰もいい思いをしない! この争いが不毛なものとなってしまうんです! それならばいっそのこと――二人で手を取り、彼を潰さないか!?」
セバスさんは身振り手振りを交えて、熱くそう語った。
(こ、この人は……。いったいどれだけ会長の裸が見たいんだ……っ)
己が欲望を満たすため、剣士としての矜持さえ捨て去る。
そのひたむきで真っ直ぐな下心には、もはや畏敬の念すら覚えてしまう。
(だけど、それは無駄ですよ)
剣士の勝負は真剣勝負、二対一などもってのほかだ。
それは二百年以上もの長きにわたり、剣士として第一線を張り続けてきたバッカスさんが一番よく知るところだろう。
たとえどれだけ強く説得されようが、彼の剣士としての誇りがそんな卑怯な手段を許すはずがない。
俺がそんな風に高をくくっていると、
「ふむ、一理あるかもしれんのぅ……」
「ば、バッカスさん……!?」
彼の誇りは想像以上にガバガバだった。
「け、剣士の勝負は真剣勝負……ご存知ですよね!?」
俺は目を白黒とさせながら二人の良心に――剣士としての心に訴えかけた。
しかし、
「あぁ、そんなことは知っているさ。しかし、考えても見てくれよ。僕たちが今握っているのは、柄も鍔も刀身もない――ただのモップだ。剣を持っていない以上、それは『剣士の勝負』として成立しない」
「うむ、いわばこれは『男の勝負』。そこに卑怯も糞ったれもない。勝つか、負けるか。ただそれだけじゃ!」
俺の声は届かなった。
セバスさんとバッカスさんは良心の呵責に苦しむどころか、むしろ開き直って見せた。
「そ、そんなの屁理屈ですよ……!?」
いくらなんでもさすがに無茶苦茶だ。
「問答無用! 行くぞ、アレン……!」
「ばらららら! 一気に形勢逆転じゃのぅ……!」
下卑た欲望に突き動かされた二人は、一足で間合いを詰めてきたのだった。




