桜の国チェリンと七聖剣【五十一】
その後、俺たちの戦いは熾烈を極めた。
腕力・技量共に秀でるバッカスさんは、
「桜華一刀流―連桜閃ッ!」
情け容赦なく、苛烈な斬撃を繰り出し続ける。
それに対して腕力に劣るセバスさんと技量に劣る俺は、
「く……っ」
「七の太刀――瞬閃ッ!」
なんとかその猛攻をやり過ごしつつ、機を見て反撃に打って出た。
攻めては受け、受けては攻め。
攻防激しく入り乱れながらも、これという『決定打』に欠ける展開が続く。
(三人が三人とも勝負を決めきれない理由は――やはりこの得物だ)
長年使い込まれているのか、はたまた水気を吸い過ぎているのか。
とにかく、ひどく脆いモップだった。
ほんのわずかでも扱いを誤れば、たちまちのうちに折れてしまうだろう。
(そして水に濡れたこの足場……っ)
ツルツルとよく滑るため、思うように体重を活かし切れない。
こんな状態では、どうしても決定打に欠けてしまう。
そうして一合二合と剣を交えていくたび、セバスさんとバッカスさんの顔色はどんどん悪くなっていった。
(くそ、早く仕掛けなければ……っ)
(ぐぬぬ、このままではマズいのぅ……っ)
そんな中、
(よしよし、いい調子だ……!)
俺は一歩また一歩と着実に勝利への道を進んでいた。
この戦いには『特殊勝利条件』が――『制限時間』が存在するのだ。
俺たちが桜の雫へ到着した際、バッカスさんはこう言った。
【今はちょうど十六時じゃから、そうだのぅ……。十七時半ごろ、店の前で合流としようか】
つまり『桜の雫』に滞在する時間は、どれだけ長くとも一時間半。
(俺たちはここまで体を洗い、サウナや水風呂へ入り、温泉につかってまったりと身の上話に興じてきた……)
短めに見積もって、既に一時間は経過しているだろう。
着替えや髪を乾かす時間を考慮すれば……リアたちが温泉につかっている時間は、残り十分か十五分ほど。
(その時間を潰し切れば、女子風呂には誰もいなくなる!)
セバスさんとバッカスさんの邪悪な企みは、全て水の泡となるのだ。
(このままでいい。いや、このままがいい……)
深く攻め込まず、かと言って守勢に回り過ぎず。
攻防のバランスが取れたこの戦況を維持すれば――俺の勝ちだ!
それから俺は無難な立ち回りを続け、さらに『三分』もの時を潰した。
「くそっ、絶剣――赤光斬ッ!」
「ぐぬぬ、桜華一刀流――夜桜ッ!」
二人の瞳に焦りの色が浮かび、その攻撃に雑味が増してきた。
「――甘い!」
俺は迫りくる二つの袈裟斬りを素早く切り返し、大きく後ろへ跳び下がる。
そうして勝利まで後わずかに迫ったそのとき、
「……バッカスさん、僕と手を組みませんか?」
セバスさんは、とんでもない提案を口にしたのだった。




