桜の国チェリンと七聖剣【五十】
セバスさんとバッカスさんの犯罪行為を防ぐため、俺が第三勢力として立ち上がれば、
「へぇ、アレンがのぞきに加わるなんて少し意外だな……。狙いはやっぱりリア=ヴェステリアかい?」
「ほぅ、小僧はあの金髪美女を好いておるのか! しかし、純粋無垢な顔をしておるが……小僧もやはり『男』よのぅ!」
二人から好奇の視線が向けられた。
「勘違いしないでください。女子風呂をのぞく気なんか、これっぽっちもありません。俺はただ――リアの裸を他の男に見られたくないだけです」
「ふっ、なるほどそういうことか……。実に君らしい真っ直ぐな選択だ」
「ばらららら! 随分と惚れ込んでおるようじゃのぅ!」
それから俺とバッカスさんは湯船から上がり、セバスさんは木の塀から飛び降りる。
「僕たちが全力でやり合えば、この辺りは更地になってしまう。そうなるともはや『のぞく・のぞかない』の問題に収まらない。――だから、今日はこいつでやらないか?」
セバスさんは掃除用具箱から三本のモップを取り出し、それぞれ一本ずつこちらへ放り投げた。
「戦闘範囲は男子風呂のみ。魂装の使用は禁止。このモップが折れた時点で即敗北。ルールはこんなところでどうだろうか?」
「はい、俺はそれで構いません」
「儂も異存はない。剣だろうがモップだろうが木の枝だろうが、貴様等のような青二才には負けん!」
ルールが決まったところで、俺たちはそれぞれ構えを取った。
腰に白いタオルを巻いただけの男が三人、モップを片手に睨み合う。
(傍から見れば、少し異様な光景かもしれないが……)
これは紛れもない真剣勝負だ。
一瞬でも気を抜けば、即敗北に繋がってしまう。
それから十秒二十秒と睨み合いが続き、桜のはなびらが三人の中心点に降り落ちたその瞬間――俺たちは同時に動き出した。
「八の太刀――八咫烏ッ!」
「桜華一刀流――夜桜ッ!」
「絶剣――紫突ッ!」
八連撃・袈裟斬り・刺突、三つの斬撃が激しくぶつかり合った。
『カコォン』という間の抜けた衝突音が響き、とてつもない衝撃が走る。
「くっ!?」
モップから腕へ、腕から足へ、足から地面へ。
俺はその衝撃を下へ下へと逃し、なんとかモップの破損を防いだ。
「さすがは『人外』に『不死身』……。魂装を抜きにした単純な腕力じゃ、ちょっと分が悪そうだね……っ」
セバスさんは苦しそうな表情を浮かべ、必死に衝撃を大地へ流していた。
そんな中、
「ばらららら! 今の一撃で叩き折るつもりじゃったが、中々どうしてやるではないか!」
バッカスさんは余裕綽々といった表情で、傷一つないモップを振ってみせた。
(やっぱり巧い……!)
彼は八咫烏と紫突を完璧に見切り、その力をいなすようにして『斜め方向の夜桜』を放ったのだ。
初撃の結果は、バッカスさんの一人勝ちと言えるだろう。
(桜華一刀流、十六代目正統継承者バッカス=バレンシア……)
やはり純粋な剣術の腕は、この中でもピカイチのようだ。




