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桜の国チェリンと七聖剣【四十七】


 それから俺は会長のプライバシーに配慮しながら、彼女の『ありふれた日常』を語っていく。


 お昼休みの定例会議では、みんなでお弁当を持ち寄っていろいろな話に花を咲かせていること。

 放課後は、リリム先輩やフェリス先輩と楽しそうに過ごしていること。

 最近はたまに素振り部へ顔を出すこともあり、そのときは真剣に剣術へ打ち込んでいること。


「――っとまぁこんな感じで、会長は毎日とても楽しそうに過ごしていますよ」


 俺がそんな風にして当たり障りのない話をすれば、


「そうか、それは何よりだ……」


 セバスさんはどこか遠くを見つめながら、満足気にコクリと頷く。


 その顔は嬉しそうでもあり、また悲しそうでもあった。


 会長・リリム先輩・フェリス先輩――かつての友達がこれまで通り、元気にやっていることを知った喜び。

 自分はもうその温かい輪へ戻れないという嘆き。


 いろいろな気持ちの混ざりあった複雑な表情だ。


(セバスさんは、いったいどうして黒の組織へ入ったんだろうか……?)


 そんなに会長のことを大切に思っているならば、彼女のために剣を振るえばいいのに……。


 皇帝直属の四騎士にまで上り詰めた彼は、それだけの力を持っている。


(でもきっと、『止むに止まれぬ事情』があるんだろうな……)


 神託の十三騎士には、黒の組織へ加入してでも叶えたい『願い』があるみたいだ。


 フー=ルドラスは、世界の果てを――『絶界の滝の先』を知るため。

 レイン=グラッドは、雨の呪いに侵された少女セレナを助けるため。

 セバス=チャンドラーは……果たしてなんだろうか。


 俺がそんなことを考えていると、


「なぁ、アレン……他にはもうないのか? どんなに些細なことでもいいんだ。本当になんでもいい。会長が泣いたり、笑ったり、怒ったり――とにかく『生きた』彼女の話が聞きたいんだ……っ」


 セバスさんはそう言って、随分と必死に頼み込んできた。


「うーん……。あっ、そう言えば……こんな話がありました」


 あれは確かそう。卒業式を目前に控えた、とあるお昼休みのことだ。

 いつものように定例会議こと『お昼ごはんの会』で集まっていると――突然生徒会室の扉が開かれ、一人の男子生徒が入ってきた。


 彼は自分が三年生でもうすぐ卒業すること、会長を一目見たそのときから好きだったこと、結婚を前提にお付き合いしてほしいこと――この三つを大声で伝え、バッと頭を下げた。


 早い話が会長へ愛の告白をしたのだ。


 その結果は――惨敗。「ごめんなさいね。私、好きな人がいるのよ」と強烈なカウンターを食らっていた。


「あのときは、さすがにちょっとビックリしましたよ。誰かが告白する瞬間なんて、初めて見ましたから」


 俺がそんな話を口にした次の瞬間、


「――ちょっと待て、それはどこのゴミクズだ?」


 彼はその端正な顔を歪め、身の毛もよだつような『圧』を発した。

 憎悪と憤怒に満ちた尋常ならざる殺気。


(これ、は……っ!?)


 俺はほんのつい先日、これと全く同じ『負の感情』を浴びせられたことがあった。


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