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桜の国チェリンと七聖剣【四十五】


 俺・セバスさん・バッカスさんの三人は、白いタオルを一枚だけ持ってサウナ室へ入った。


 部屋の壁三面に設置された、高さの異なる三段ベンチ。

 床に敷き詰められた、木目(もくめ)の美しい簀子(すのこ)

 壁に掛けられた時計と温度計。


 部屋の端には熱せられた石が大量に詰まれ、その傍には水のたっぷり入った(おけ)があった。


(へぇ……。見た目は古びたログハウスみたいなのに、中はかなり本格的だな……)


 千刃学院の大浴場にあるサウナと比べても、ほとんど遜色(そんしょく)がない充実具合だ。


「――うぅむ、ちと『蒸し具合』が足りんのぅ」


 バッカスさんはそう言って――大量の水が入った桶をがっしりと掴み、それをそのまま熱々の石へ振りかけた。

 ジュワーッという水の蒸発する音が響き、大量の水蒸気がサウナ室を満たしていく。

 体感温度が一気に引き上がり、じんわりと汗が浮かび上がってきた。


(あ、相変わらず豪快な人だな……)


 俺がそうして苦笑いを浮かべていると、


「まさかこんなに立派なサウナまであるなんて……。さすがは『桜の雫』だ。世界指折りの湯屋という評判は、伊達ではありませんね」


 セバスさんは涼しい顔をしながら、満足気に何度も頷いた。


「ばらららら、そうじゃろう! ここでたっぷりと汗を流した後に入る水風呂は、まさに天にも昇るほど気持ちええぞ!」


「ふふっ、それは楽しみです」


 セバスさんとバッカスさんは、楽しげにそんな雑談を交わしていた。

 どうやらこの二人は、割合に気が合うようだ。


 それから俺たちは互いにほどほどの間隔を空けつつ、それぞれ思い思いの場所へ腰を下ろす。


「――さてと、それじゃちょっとした『情報交換』といこうか」


 セバスさんはそう言って、人差し指を自らの顎に添えた。


「うーん、そうだな……。一月七日、アレンが神聖ローネリア帝国で大暴れしたあの日。帝国上層部で決定された『責任の所在』についてとか……興味ないかい?」


「……っ! ……ぜひ聞かせてください」


 あの事件以降、ずっと気になっていたことだ。


「結論から言えば――全ての罪を君一人が背負うことになったよ。シィ=アークストリアとヌメロ=ドーランの結婚式を破壊したこと。護衛として付いていた、神託の十三騎士グレガ=アッシュを斬り捨てたこと。逃走時、ザク=ボンバールをはじめとした大多数の構成員を薙ぎ払ったこと。帝国史上最悪の大事件、その首謀者はアレン=ロードル。周囲にいた他の剣士は、ただのお付きに過ぎない。――っという風に、僕が直接陛下へ報告しておいたからね。……問題なかっただろう?」


「はい、ありがとうございます」


 あの一件。「どうしても会長を助けたい」と言って、クラウンさんの強い反対を押し切り、計画を実行に移したのは――俺だ。

 当然ながら、その責任は全て俺が背負うべきものである。


(……よかった)


 敵国のど真ん中まで一緒に付いて来てくれたリアやローズ、リリム先輩にフェリス先輩――彼女たちにこれ以上の迷惑を掛けてなくて……本当によかった。


(今はもう敵同士になってしまったけれど……)


 うまく報告してくれたセバスさんには、感謝の言葉しかない。


「ふっ、君ならそう言うと思ったよ」


 彼はどこか呆れたように笑い、


「ばらららら! 面白い、面白いぞ小僧! 今風の柔和な顔付きをしておるので、てっきり控え目な男かと思ったが……なかなかどうして、人は見掛けによらんのぅ! まさかそこまで大胆なことをしでかしておったとはな!」


 バッカスさんは何故か大笑いして、バシンバシンと俺の背中を叩いた。


 そうして政略結婚についての事後報告がひと段落したところで、


「――さて、ここで一つ『大事な話』があるんだけど……いいかな?」


 セバスさんは神妙な面持ちで、ジッとこちらを見つめた。


「……なんでしょうか?」


「皇帝陛下は、アレンの剣士としての腕前を高く評価していてね。君をぜひ黒の組織(うち)へ――『神託の十三騎士』へ招き入れたいと言っているんだが……どうかな?」


 そうして彼は、とんでもない提案を持ち掛けたのだった。

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