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桜の国チェリンと七聖剣【四十三】


 時の仙人の目的を語ったバッカスさんは、何故か鋭い視線をこちらへ向けてきた。

 俺はなんとも言えないプレッシャーを感じながら、話を先へ進めていく。


「破壊の子、ですか……?」


「……あぁ、そうじゃ。世界の秩序と(ことわり)を破壊し、『大変革』をもたらす恐るべき力を秘めた運命の子。時の仙人は、そやつを血眼(ちまなこ)になって探しておる」


「その破壊の子を見つけたとして、時の仙人は何をするつもりなんですか?」


「さぁのぅ、そこまでは教えて(・・・)もらえ(・・・)なんだ(・・・)……。というのも、今の話は遥か昔に聞きかじったものなんじゃよ」


 彼はそう言って、バリボリと頭を()いた。


「というと、一億年ボタンについて誰か他に詳しい人が?」


「うむ。しかし、懐かしいのぅ……。あやつ(・・・)はなんでも知っとる不思議な男じゃったわ……」


 バッカスさんはどこか遠い目をしながら、ゆっくりと語り始めた。


「百五十年ほど前……儂は自分より強い剣士を探すため、武者修業の旅に出ておった。あのときは体力・気力共に充実した『全盛期』というやつでのぅ。儂がひとたび剣を振るえば、海は割れ、天は裂け――幾千幾万の剣士が倒れ伏した! まさに天下無敵、蛮勇(ばんゆう)(ふる)っておったわい!」


 彼はそんな武勇伝を語りながら、「ばらららら!」と豪快に笑う。


「幾千幾万……?」


 さすがにそれは、少し大袈裟ではないだろうか?


「全て事実じゃ! 儂は生まれてこの方、嘘をついたことがないからのぅ!」


 彼はバシンと俺の背中を叩き、詳しい話を続けた。


「そうして儂が世界各地を巡り歩いておったとき、テレシア公国で一人の剣士と出会った。なよっとした細身の若い男じゃったが、その剣術は恐ろしいほどに冴え渡っていた。休みなく三日三晩と斬り結んだ結果、(つい)ぞ決着はつかんかった。今も(まぶた)を落とせば、つい先ほどのことのように思い起こされる……。あの剣戟(けんげき)は、本当に楽しかったのぅ……」


 全盛期のバッカスさんと互角……。

 どうやらその剣士は、とんでもない『高み』にいるようだ。


「その後、儂とそやつは友となり、しばらく一緒に旅をした。なんでも奴は『大望』を為すため、『強い仲間』を探しているとのことじゃった。年の割には、いろいろなことを知っておる奇妙な男でのぅ……。一億年ボタン・時の仙人・超越者、その他にも幻霊や魔族についてなどなど、旅の道中いろいろな話を聞かされたもんじゃ。まぁつまり――儂がさっきした話は、全てその友から聞きかじったものというわけだ」


 バッカスさんはそう言って、話を締めくくった。


「なるほど、そうだったんですか……。百五十年前ともなれば、さすがにもうそのご友人は亡くなっていますよね……」


 これまで謎に包まれてきた、一億年ボタンと時の仙人。その秘密を知れるチャンスだと思ったんだけど……。


(彼のように二百年を越えて生きる人なんて、常識的に考えれば存在しないよな……)


 そうして俺ががっくり肩を落としていると、


「いいや、まだ生きておるぞ。近頃はもうめっきり会わんようになったが、たまに『物騒な便り』を寄こしてきおるわ」


 バッカスさんは何でもない風にして、信じられない言葉を口にした。


「ま、まだ生きていらっしゃるんですか!? ぜ、ぜひその人の名前を教えてください!」


「あぁ、構わんぞ。そやつの名はバ――」


 彼がそう口にした次の瞬間、


「――すまない、アレン。こっちのボディソープが、切れてしまっているようだ。ちょっと君のを貸してくれないか?」


 横合いから、困り顔のセバスさんが割り込んできた。


「あっ、はい。こちらを使ってくださ……い!?」


 思わず二度見してしまった。


「せ、セバスさん……!?」


「やぁ、久しぶりだな」


 俺の左隣には――かつて千刃学院の生徒会副会長を務めた、皇帝直属の四騎士セバス=チャンドラーの姿があった。

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