桜の国チェリンと七聖剣【三十六】
バッカスさんの斬撃が速過ぎて、このままでは修業にならない。
この問題を解決するため、修業方法にちょっとした工夫が施された。
まずはこれまで通り、彼がお手本の斬撃を放つ。
「桜華一刀流――桜閃」
まるで閃光のような突きが、一直線上に駆け抜けた。
そしてその直後、
「桜華一刀流――桜閃ッ!」
ローズも全く同じ技を放つ。
『超高速』の斬撃と『高速』の斬撃。
速度の違う二種類のお手本を見ることにより、俺たちは全員桜華一刀流の術理を学ぶことが可能となった。
そして実演が終われば、修業効率を上げるために技の『コツ』が説明される。
「この桜閃という技のコツは……そうだのぅ……。なんというかこうグッと重心を落とし、ズバッと刺す感じじゃ!」
バッカスさんの教え方は、控え目に言って地獄だった。
(身振り手振りを使って、真剣に教えてくれているのはよく伝わるんだけど……)
口から出てくるのは、「グッ」や「ズバッ」といった擬音語ばかり。
残念ながら、これではほとんど参考にならない。
そうしてバッカスさんの説明が終われば、今度はローズの番だ。
「桜閃を放つ際には、三つのポイントがある。それは突きの角度、重心移動のタイミング・軸足の位置だ。まず『突きの角度』だが、実はこの技は真っ直ぐに放っているのではない。剣の先端は、ほんの僅かに斜め下を向いているんだ。こうすることによって重力を――」
彼女の教え方は、まるで天国のようだった。
聞き取りやすい綺麗な声、具体的で論理的な説明。
しかも、こちらの理解度を確認しつつ進めてくれるから、置いてけぼりになることがない。
(もしかしたらローズは、先生に向いているのかもしれないな……)
そう思うほど、とてもわかりやすい説明だった。
それを裏付けるようにして、
「――ねぇ、ローズ。重心移動のタイミングなんだけど、こんな感じでいいの?」
「あぁ、いい調子だ。さすがはリアだな」
「ローズさん、軸足の位置はこのあたりでいいのかしら?」
「そうだな……。もう少しだけ、左に寄せた方がいい。……そう、その位置だ」
彼女は瞬く間に人気講師となり、リアや会長は次々に疑問を投げ掛けた。
きっと同性同士だから、聞きやすいということもあるのだろう。
その結果、
「あ、あの……。バッカスさん、質問をしてもいいでしょうか?」
「うむ、もちろん構わんぞ」
俺はほとんどマンツーマンの状態で、バッカスさんとの修業に臨むことになった。
「重心移動のタイミングが、ちょっと掴みづらいんですけど……。何かコツのようなものありますか?」
「そうだのぅ……。剣をグッと引いたときに後ろ。ズバッと押し出したときに前。という感じじゃな」
「……ありがとうございます」
残念ながら、やっぱり参考にはならなさそうだ。
とにもかくにも――こうして俺たちは、ひたすら桜華一刀流の修業に打ち込んだのだった。
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