桜の国チェリンと七聖剣【三十一】
ローズが三歳のときの写真を目にしたリアは、
「うわぁ、可愛い……! まるでお人形さんみたいですね!」
目をキラキラと輝かせ、前のめりになってのぞき込んだ。
「ふふっ、この頃から凛とした空気を纏っているのね」
「可愛らしくもあり、かっこよくもあるな!」
「めちゃくちゃ美人さんなんですけど……!」
会長たちもそう言って、口々に率直な感想をもらす。
(確かに可愛いらしいな……)
三本の蝋燭が立てられた誕生日ケーキ。
それを前にして微笑む彼女は、まるで絵本から飛び出してきたような愛らしさがあった。
「ばらららら! そうじゃろう、そうじゃろう! ローズは小さい頃から本当に可愛い子でのぉ……まさに『目に入れても痛くない』というやつなんじゃ!」
自慢の孫を褒められたバッカスさんは、これ以上ないほど嬉しそうだった。
どうやら彼もグリス陛下やロディさんと同じく、重度の子煩悩。いや、孫煩悩のようだ。
「――ところでバッカスさん、他の写真はないんですか?」
リアがそう言って、期待に満ちた目を向けた。
「おぉ、そうか! 見たいか! 客人にそこまでねだられたならば、仕方あるまい……今日だけ特別に大公開してやろう!」
上機嫌な彼は、破れないようゆっくりと次のページをめくる。
するとそこには――桜色の美しい着物に身を包み、おいしそうにりんご飴をかじるローズの写真があった。
だいたい八歳ぐらいだろうか?
写真の中の彼女は、さっきよりもかなり成長していた。
「これは数年前、リーンガード皇国へ行ったときのものじゃな。確か……『商人の街』ドレスティアとか言ったかのぅ? ちょうど『大同商祭』なる祭りが開かれていて、凄い人混みじゃったわ」
バッカスさんは遠い目をしながら、そんな説明を口にした。
去年の四月頃、俺とリアとローズは一緒に大同商祭を見て回っている。
(そう言えば、あのとき……。『ここへは昔、お爺さまに連れてきてもらったことがある』って、ローズが言っていたっけか……)
一年ほど前の会話を思い出していると、バッカスさんはまた一枚ページをめくった。
「次は……おぉ、懐かしいのぅ! これはローズが四歳の頃、おねしょをして落ち込んでいるときのものじゃ!」
そこに写っていたのは、物干し竿に掛けられた子ども用の布団とどこか哀愁漂うローズの小さな背中。
よくよく見れば、干された布団にはちょっとした『湖』があった。
「あやつが『お化けなんて怖くない!』と言いよるから、夜遅くに『とっておきの怪談話』を披露してやれば……結果はこの通りじゃ。悔しそうに『不覚……っ』と呟いておったのをよぅく覚えておるわ!」
バッカスさんは楽しそうに、ちょっとした笑い話を語る。
どうやら彼女は、小さい頃からお化けが大の苦手らしい。
そんな風にローズの写真を見ていると――居間の扉がガラガラと開き、たくさんの湯呑みを手にした彼女が入ってきた。
「みんな、すまない。少し遅くなっ……た……!?」
バッカスさんが手にした古いアルバム、そこへ貼られた写真、それを鑑賞する俺たち。
一つ一つゆっくり状況を飲み込んでいったローズは、羞恥のあまり頬を真っ赤に染めていく。
そうして耳まで真っ赤にした彼女は、
「な、な、な……何をしているんだ!?」
大きな声でそう叫んだのだった。
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