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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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復学と内乱【一】


 一か月の魔剣士修業を終え、無事に停学期間が明けた俺たち三人は、理事長室の前に集合した。


 いつものようにノックをしてから入室許可をもらい、ゆっくりと黒い扉を開ける。


「――失礼します」


 そこにはいつものようにピンピンとした様子のレイア先生と、何故かいつもに増してゲッソリとした様子の十八号さんがいた。

 ……どうやらこの一か月、よほど先生にこき使われていたようだ。


「おぉ、戻ったか! ……ほぉ、三人とも少し顔つきがたくましくなったんじゃないか?」


 先生は俺たち三人の顔をジッと見つめながら、そんな感想を漏らした。


「あ、あはは……。けっこういろいろありましたから……」


「そうね……。イベント盛りだくさんだったわ……」


「密度が高かったね……」


 冷静になってふと思い返すと、この一か月はなかなかに濃密だった……。


 多分、顔も『たくましくなった』というより『老けた』と言った方が正確だろう。


「ふふっ。まぁそのあたりの話は、追々(おいおい)聞かせてもらおうか」


 そうして先生は嬉しそうに笑うと、


「よし、では君たち三人の停学を解き――一年A組への復学を許可しよう!」


 手元にあった三枚の書類にボンボンボンと理事長の印鑑を押した。


「ありがとうございます」


「やったーっ!」


「ようやく復帰」


 これでやっと授業に参加できる。


(魂装の授業か……楽しみだっ!)


 一か月の遅れという不安はあるけど、それを打ち消してあまりあるほどの期待と喜びがある。


 俺はこの短い期間にたくさんの魂装を目にしてきた。


 リアの<原初の龍王(ファフニール)>。

 カインさんの<百年の地獄(ヘル・ハンドレッド)>。

 シドーさんの<孤高の氷狼(ヴァナルガンド)>。

 ドドリエルの<影の支配者(シャドウ・ルーラー)>。

 リゼさんの<枯傘衰(かれさんすい)>。


 どれもとてつもなく強力な能力を持ったものばかりだ。


(俺の魂装は……いったいどんな能力があるんだろう……っ)


 実を言うと、昨晩そんなことばかり考えてしまってあまり眠れなかった。


「さてと、それでは早速一限目の授業からだが……。ふむ、後十分ほどで始まることだし、私も一緒に行くとしよう」


 それから俺たちは先生と一緒に一年A組の教室へと向かった。


 一カ月ぶりに歩いた廊下は、少しだけ懐かしい感じがした。


「ほら、着いたぞ」


 先生は教室の扉を開けずに一歩横へとズレた。

 どうやらこの扉は、俺が開けなくてはならないらしい。


「ふぅ……っ」


「な、なんだか、ちょっと……緊張するね」


「一か月ぶり、だからね……」


 一カ月ぶりというのも当然あるけど……それ以上に顔を合わせづらいという気持ちがあった。


(みんなには、少なからず迷惑を掛けてしまったからな……)


 大五聖祭でのシドーさんとのあの試合。


(もし俺が霊核に体を支配されず、ちゃんとあの力をコントロールできていたら……)


 多分、千刃学院(うち)は因縁の相手である氷王学院に勝てていただろう。


 そんなありもしない『もしも』を……ふとしたときに考えてしまうのだ。


「ふぅーっ……それじゃ、開けるぞ?」


 二人は無言でコクリと頷いた。

 クラスメイトからの冷たい視線と罵倒を覚悟した俺が、勢いよく扉を開けた次の瞬間。


「「「アレン、リア、ローズっ! 復学おめでとぉーっ!」」」


 いくつものクラッカーがパァンと鳴り、同時に祝福の言葉が送られた。


「「「……え?」」」


 全く予想だにしない状況に、俺たち三人はポカンと口を開けてしまう。


「あはははっ! おいおい、なんだよその顔!」


「どっきり大成功だなっ!」


「アレンもリアもローズも、みんなお疲れさまー! 大変だったねー」


 A組のみんなはそう言って、俺たちの元へ駆け寄ってきた。


「い、いや、その……みんな、怒ってないのか……?」 


 俺はずっと気になっていたことを口にする。


「ないない! アレ(・・)は相手が先にやり過ぎたんだっ! それに、いけ好かねぇ野郎だったしなっ!」


「あぁ! むしろボコボコにしてくれてスカッとしたぜっ!」


「まぁ最後のは、ちょっとやり過ぎだったけどなっ!」


 そう言ってみんなは、温かく俺たちを迎え入れてくれた。


(……っ)


 少し……目頭が熱くなってしまった。


 でもさすがにこんな大勢の前で泣くのは恥ずかしかったので、コッソリと太ももを指でつねって涙を強引に引っ込ませた。


 そうこうしている間にも、矢継ぎ早に質問は飛んだ。


「なぁなぁ、停学中は魔剣士やってたんだろう? その話聞かせてくれよ!」


「魔剣士協会オーレスト支部で登録したんだろ? よくやるよなぁ……あそこには超怖い『ハゲ』がいるって噂なんだぜ?」


「そういや、アレも聞きてぇ! 大同商祭(だいどうしょうさい)のあの事件! リゼ=ドーラハインのインタビューにアレンの名前があったぞ!?」


「え、えーっと……っ」


 雨のように降る質問に、俺が困惑していると、


「――ゴホン。待て待て、お前たち。そういう土産話は、休み時間にしろ。一応今はもう授業中なんだからな」


 レイア先生はそう言って、黒板の上にある掛け時計を指差した。


 見れば、一限の開始時刻から既に三分が経過していた。


「あーくそ、仕方ねぇな」


「アレン、リア、ローズ! ぜひ後でお話聞かせてね!」


 そうしてみんなはポツポツと不平を漏らしながらも、それぞれ自分の席に着いた。


 俺たち三人も窓際にぽっかりと空いた三つの空席――自分たちの席へ向かった。


 それから教壇に立った先生は、妙なこと(・・・・)を言った。


「さて、それでは本日より――魂装の授業(・・・・・)を開始するっ!」


「いよっしゃーっ! 待ってましたっ!」


「この一か月きつかったもんなぁー……っ」


「ふっ、俺の霊核がうなりを上げるぜっ!」


 同時にクラスメイトは「待ってました!」とばかりに、歓声をあげた。


 俺はリアとローズと顔を見合わせた。


「せ、先生……? 『本日より』ってどういうことですか?」


「ん? ……あぁ、まだ言ってなかったか。君たちが停学になってから、復学するまでの一か月。A組全生徒の希望により、ひたすら筋力トレーニングしかやっていないんだよ。何でもお前たち三人と同じタイミングで、魂装の授業を受けたいとのことだ」


「そ、そんな……っ!?」


 俺がバッとみんなに視線を向けると、彼らは笑顔でコクリと頷いた。


(確かに、みんなと一緒に魂装を学べるのはとても嬉しい……)


 リアとローズの三人で学ぶのもいいけど、クラス一丸となって魂装を学ぶ方がきっともっと楽しいだろう。


(でも、それでみんなの大事な一か月を無駄にするのは……違う)


 嬉しさよりも、申し訳なさの方が遥かに勝ってしまった。


 するとそんな俺の思考を読んだかのように、先生は不敵に笑った。


「おっと勘違いするなよ? こいつらは一分一秒たりとも無駄にしていないぞ?」


「ど、どういうことですか?」


「ふっ。何と言ったってこの私が直々に! みっちりと一か月、付きっ切りでしごいたからなっ! よく見てみろ。全員が全員、かなりレベルアップしているのがわかるだろう?」


 ……確かに。


 よくよく見れば、みんなの体つきは一か月前とは比べ物にならなかった。


(別にポーラさんやボンズさんのようになったわけではないけど……)


 男子は体つきが一回り大きくなっている。

 女子も見える範囲で言うと、足回りにあった脂肪がきめ細かな筋肉へと変わっていた。 


 筋力は、全ての剣術の基本だ。

 極端な例で言うと、もし剣術の天才である五歳児と筋骨隆々の素人が剣による真剣勝負をした場合――間違いなく、素人が勝つだろう。


 それほどまでに『筋力』というベースは大事なのだ。


「へへっ、アレン? 今なら、お前の動きにも付いて行けるぜ!」


「地獄の一か月を乗り越え、さらなる発展を見せた斬鉄(ざんてつ)流――これまでとは一味違うぞ?」


「今度一戦、付き合ってもらうぜぇ?」


 以前、俺と戦った男子三人組は自信ありげに笑った。


「……っ! あぁ、もちろんだ! やろう、模擬戦っ!」


 どうやらさっきのは、完全に俺の考え過ぎだったようだ。


 ここにいるのは、俺なんかより遥かに才能のある剣士ばかり。

 そんな彼らが、一か月もの時間を無駄にするわけが無かった。


「よし、それじゃ早速授業を開始するぞっ! まずは教室移動だ――ついてこい!」


 そうして俺たちはレイア先生の後について、『魂装場(こんそうじょう)』と呼ばれる地下室へと向かった。


「よし。それじゃ準備室から、各自一本ずつ霊晶剣(れいしょうけん)を持って来るように!」


 先生はそう言うと、いつの間にか首にぶら下げていたホイッスルを『ピーッ!』と吹き鳴らした。

 何だか既視感のある光景だった。


「アレン、行きましょう!」


「こっちだよ」


「あぁ、うん」


 俺はリアとローズに手を引かれて、準備室へと向かった。


 霊晶剣――霊晶(れいしょう)と呼ばれる希少な鉱石で作られた剣だ。


 主にこれは魂装の授業で使われると聞いたことがある。

 なんでも持つ者の心の奥底に眠る『魂』を、表層に浮かび上がらせるのだとか。


「霊晶剣……これね!」


「……綺麗」


 二人は大量に並べられた霊晶剣をサッと引き抜いた。


 俺もそれにならって、そのうちの一本を手に取る。


(っと……意外に重たいな)


 見た目は透明な青いガラスのようだけれど……。

 さすがに鉱物というだけあって、普通の剣よりも遥かに重かった。


 後ろがつっかえているので、それぞれ霊晶剣を手にした俺たちは準備室から出た。


 そのとき、俺の頭にパッといい考えが浮かんだ。


(……そうだ! これで素振りすると、いいトレーニングになるぞ!)


 これほどの重量で素振りを行えば、きっと効果も二倍、三倍となるはずだ。

 肩回りに体幹、腹筋に背筋――その効果は凄いものがあるだろう。


 そうして肩慣らしに二、三度軽く振っていると、


「言っておくが、霊晶剣は非常に高価だ。一本百万ゴルドはくだらんから、くれぐれも丁寧に扱ってくれよ」


 先生は生徒全員に聞こえるよう大きな声でそう言った。


「ひゃ、百万ゴルド……っ!?」


 その目が飛び出るほどの金額に絶句し――すぐさま素振りをやめた。


(こ、この剣一本で百万ゴルドもするのか……っ!?)


 霊晶剣を大事にソーっと両手で持ち、周囲をザッと見回した。


 パッと数えられるだけでも……三十本以上はある。

 ――つまりは、ここにあるだけで締めて三千万ゴルド。

 これは最低でも十年は遊んで暮らせる金額だ。


(さ、さすがは五学院の一つ、千刃学院……っ)


 その設備の充実具合には、開いた口が塞がらない。


 俺が一人顔を青ざめている中、周りのみんなはまるで気負うことなく、霊晶剣を取り扱っていた。……多分、みんなかなりのお金持ちなんだろう。


 まぁ、当然と言えば当然の話だ。

 ここにいるみんなは有名な剣術学院を出た超エリートであり、自分のような片田舎出身のものは一人もいないのだ。


 すると、


「ん……っ」


「あ……っ」


 霊晶剣を持ったリアとローズは、さっきから時折変な声をあげて少しモジモジとしていた。


「ふ、二人とも大丈夫……?」


「ご、ごめんね、アレン! へ、変な声出しちゃって……っ」


「な、なんか体が、変な感じ、なの……っ」


 そう言って二人は、少しフラフラとしながら霊晶剣に目を落とした。


(……『変な感じ』?)


 どう変な感じなのか、全くわからないけど……。


 よく見れば二人の頬は、少し紅潮していた。

 もしかすると熱があるのかもしれない。


(保健室に行った方がいいんじゃないか……?)


 俺がそんなことを考えていると、再び『ピーッ!』とホイッスルが鳴った。


「さて、全員霊晶剣は持ったな?」


 先生がザッと全員を眺め見た。

 それに対して、俺たちはコクリと頷く。


「既に知っていると思うが、霊晶剣は魂装の習得のみに使われる特殊な剣だ。持っているだけで何となく不思議な感じがするだろう?」


 先生の質問に周りの生徒は一斉に頷いた。


(不思議な感じ、か……。うん……全然しないな)


 どうやら何にも感じていないのは、この中で俺一人だけのようだ。


「君たちのように才能のある――感応度(かんのうど)が高い剣士は持つだけで、体の奥が(うず)くはずだ。これは内に眠る『霊核』が高ぶりを見せている証拠だな。どれだけ疼くかは個人差が大きいが……まぁ一般に男性よりも女性の方が感応度は高いと言われている」


 どうやらその疼きは、才能によるところが大きいらしい。


(才能、か……)


 これ以上納得のいく説明は他にはないな……。


「これから君たちには、自分の魂に住む『霊核』と対話を始めてもらう。そこで話し合いなり、喧嘩なり、交渉なりをして――とにかく力を分けてもらえ。そこで分けてもらった力を――霊核の一部を、具象化したものこそが『魂装』だ!」


 ……なるほど。


 これまでふんわりとしか知らなかった知識が体系化(たいけいか)され、まとまっていくこの感覚。

 点と点が線で繋がるような感じがして、とても気持ちよかった。


「まぁ、先に一つだけ注意をしておくと――飲まれるなよ?」


 先生は声を低くして、はっきりとそう警告した。


「霊核とは基本的には、君たちを守護するものだ。ほぼ(・・)味方だと思ってくれて構わない。だがしかし、極まれにその体を乗っ取ろうとする――強烈な自我を持つものがいる。君らも知っての通り、アレンの霊核がその一例だ」


 みんなの視線が俺に集中した。


「とは言ってもアレンのは特別(スぺシャル)であり、異常(アブノーマル)――レア中のレアケースだ。普通、こんなことは滅多に起こらないから、そこまで心配し過ぎる必要はない」


 ……つまり、俺はこの授業を受けるにあたって大いに心配する必要があるということだ。


 何だか、一気に気が重くなってしまった……。


「それに万が一霊核に飲まれた場合でも、君たちは全く心配しなくていい。――この私が力づくで制圧してやるからな」


 そう言って先生は、右手の指をパキッと鳴らした。


(……心強いな)


 普通の仕事ではいろいろと頼りないところはあるけれど、力仕事(こういう)ところだけは異常に心強い。


「さて、それじゃ早速説明に入るか。――霊晶剣の使い方は単純明快! まずは静かに目を閉じ、精神を集中させる。それからゆっくりと自分の意識を内へ内へと――魂へと沈めていく。そして気付いたときには、目の前に霊核がいるだろう」


 内へ内へ……か。

 ずいぶんと抽象的で感覚的な説明だった。


「まぁ、百聞は一見に如かずだな。とりあえず、やってみるといい」


 そうして先生は、パンと手を打ち「始め!」といった。

 その後、みんなは静かに目を閉じて精神を集中させ始めた。


(俺も……やるか)


 正直、少しだけ怖かった。


 またアイツ(・・・)に体を乗っ取られ、力の限り暴れ回るんじゃないかという不安が脳裏をよぎる。


(……でも、今回はあのレイア先生が『力づくで制圧する』と言ってくれている)


 彼女ならば、最悪俺が暴走しても何とか取り押さえてくれるだろう。


「ふぅー……っ」


 俺は息を大きく吐いて、自分の意識を内へ内へ――魂の方へと沈めていった。


 一分二分三分と、ゆっくり時間が経過していく。


 そうしてふと気が付けば目の前に……いた(・・)


「よぉ゛……ちょっとぶりじゃねぇか」


 ふわりと浮かび上がった長い白髪。

 顔に浮かび上がった黒い紋様。

 人を食い殺しそうなほどに凶暴な顔つき。


 そして何より――俺とそっくりな顔をしたアイツ(・・・)がいた。

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[気になる点] 「よくよく見れば、みんなの体つきは一か月前とは比べ物にならなかった」 “比べ物にならない”のに“よくよく見”なければわからんのかいw
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