桜の国チェリンと七聖剣【十五】
※あとがき欄に大きなお知らせがございます!
桜物を身に付け、桜の国チェリンに染まった俺たちは人の流れに沿って歩いていた。
「――ところで会長、これからどうする予定なんですか?」
俺がそんな質問を投げ掛けると、
「えーっと、ちょっと待ってね」
彼女はそう言って、懐から可愛らしい手帳を取り出した。
「とりあえず国宝の『億年桜』を目指しながら、観光名所を回っていくつもりよ。後は、食べ歩きなんかもいいかもしれないわね」
「食べ歩き! いいですね!」
『花より団子』のリアは、目を輝かせて食い付いた。
その一方でローズは、難しい表情を浮かべる。
「しかし、今から観光をするとなれば、億年桜へ到着する頃には昼時を回ってしまうな……」
「昼を回ると、何かまずいことでもあるのか?」
「あぁ、あの一帯は年中盛大な花見が開かれていてな。早朝から熾烈な場所取り合戦が行われるのが常だ。正直、今から行ったとしても端の方に座れれば万々歳。それが昼時を回るとなれば、最悪立ち見になるかもしれないな……」
「そ、そんなに凄い人なのか……っ」
俺たちがそんな話をしていると、会長がすぐにその不安を消し飛ばしてくれた。
「大丈夫、その点については心配ご無用よ。アークストリア家の使用人が、現地でしっかり場所取りをしているの。それに食材や飲み物、遊び道具なんかも全て準備してあるわ!」
「そ、それはありがたいんですが……。なんだか、至れり尽くせりで申し訳ないですね……」
移動手段・宿泊場所・場所取りに食べ物の準備まで、全てアークストリア家に面倒を見てもらっている。
嬉しい反面、なんだか申し訳ない気持ちになってきた。
「ふふっ、気にしないで。今回はお父さんがえらく張り切っちゃってね。『娘の命を救ってくれた恩人たちだ。アークストリア家の威信に賭けて、最高のおもてなしをするんだ』って、うちの使用人に厳しく言い付けているのよ。だから、アレンくんたちは思う存分に楽しんでちょうだい」
「なるほど、そういうことでしたか」
ロディスさんは会長のことを溺愛しており、俺たちが政略結婚を潰した一件について深く感謝していた。
どうやらこの春合宿には、そのお礼の意味も含まれているらしい。
(せっかくのご厚意だし、今回はありがたく甘えさせてもらおうかな……?)
俺がそんなことを考えていると、
「――さて、そろそろ行きましょうか!」
会長が元気よく声を上げ、いよいよ桜の国チェリン巡りが始まったのだった。
それから俺たちは、現在地から最も近い観光名所――桜月堂というお寺へ足を運ぶ。
その目的は、境内で焚かれた桜線香だ。
なんでもその煙を頭にかければ、頭がよくなるという言い伝えがあるらしい。
この中で一番成績の悪いリリム先輩は、張り切ってそこへ向かい――何故かその煙を胸いっぱいに吸い込んで当然のようにむせ返った。
いったい何故そんな奇行に及んだのか問い詰めれば、
「頭からかぶるだけじゃ、足りないと思ったんだよ。やっぱり御利益ってのは、こう……全身で感じないとな!」
などと、およそ常人では理解の及ばない供述を残した。
多分だけど、桜線香の効き目は薄いと思われる。
そうして次に向かったのは、二対の大樹が寄り添い合ってできた『円縁桜』だ。
ここは『縁結び』の効果があるパワースポットのようで、リアとローズと会長はしばらくこの場から離れたがらなかった。
そんな三人に対し、悪戯好きなリリム先輩とフェリス先輩がニヤニヤとちょっかいを加え……それはまぁいろいろと大変だった。
その後、何か所か有名な観光名所を巡ったところで、ようやくこの国の名物『桜餅』の販売店を発見した。
店の名前は『チェリンの餅屋』。
ローズの話によれば、創業五百年を超える『老舗中の老舗』らしい。
俺たちはそこで一個ずつ、桜餅を頼んだが……。
なんとリアは――たったの十個しか注文しなかった。
(どこか具合でも悪いのか、それとも気分が優れないのか……)
心配でたまらなくなった俺が「どうして、たったの十個なんだ?」と問い掛ければ、
「本当はもっとたくさん食べたいけど……。今はみんなで食べ歩き中だから、持ち歩ける量だけにしたのよ」
彼女はそう言って、いつも通り元気な笑顔を見せてくれた。
こんな風に俺たちは、いろいろなものを見て、体験して、食べて――とても楽しい時間を過ごした。
そうしてようやく、たどり着いた。
桜の国チェリンの南端、そこに咲き誇る国宝億年桜へ。
「これは……凄いな……!」
眼前に広がるのは、まさに一面の『桜化粧』。
これまで見たことのない鮮やかな桜吹雪が、俺の心を強く揺さぶってきたのだった。
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