桜の国チェリンと七聖剣【十三】
俺が勇気を振り絞って「指輪をプレゼントさせてほしい」と伝えると、リアはその大きな瞳をキラキラと輝かせながら身を乗り出した。
「ほ、ほんとにいいの……!?」
「あぁ。いつもご飯を作ってもらったり、いろいろお世話になっているからな。ちょうど何かお礼がしたいと思っていたんだよ」
咄嗟にそんな説明を加えると、
「や、やった……っ。アレンが……私に……!」
彼女は胸の前で両手をギュッと握り締め、抑えきれないといった風に嬉しさを爆発させた。
(……よかった)
まさかこれほど喜んでもらえるとは、思ってもいなかった。
(こんなに幸せそうなリアを見れたんだ。一万ゴルドの価値は、もう十分手に入れたな……)
なんともいえない大きな充実感が、お腹の底から込み上げてくる。
それから俺は手の空いている店員さんにお願いして、ガラスケースに入った指輪を取り出してもらった。
どうやらこれはかなりの人気商品らしく……。
運のいいことに展示されているものが最後の一個、それにサイズもぴったりだった。
「今日はついてるな、リア」
「うん!」
その後、二人で一緒にレジへ並び、お金を支払おうとしたそのとき、
「――あら、彼女さんへのプレゼントですか?」
三十歳ぐらいの落ち着いた雰囲気の女性店員さんが、優しげな表情でそう問い掛けてきた。
「え、あっ……いや、それはまだ……っ。なんというか、その……っ」
「……っ」
俺が返答に困っていると、リアは頬を赤くしながらスッとこちらへ身を寄せた。
その様子を見た店員さんは、「あぁ、なるほど……」と意味深に呟く。
「ふふっ、うまくいくように願っていますよ」
彼女はそう言って、綺麗な小箱に収められた指輪を手渡してくれたのだった。
■
それから俺たちは一旦店の外へ出て、人通りの少ない路地裏へ移動する。
誰かに見られながらプレゼントを渡すのは、さすがに気恥ずかしかったのだ。
(――よし、ここなら誰もいないな)
人目がないことをしっかり確認してから、俺は大きく息を吐き出した。
(さて、やるか……っ)
プレゼントを渡すこの瞬間だけは、男としてしっかりと決めたい。
「――リア。いつもいろいろ助けてくれてありがとう。もしよかったら、この指輪を受け取ってくれないか?」
そうして指輪の入った白い小箱を差し出せば、
「あ、ありがとう……っ。とっても嬉しいわ……!」
彼女は大事そうにそれを受け取ってくれた。
「ね、ねぇ……開けてもいい……?」
「あぁ、もちろんだ」
「そ、それじゃ早速……っ」
期待に胸を膨らませたリアが、ゆっくり小箱を開けるとそこから――桜色の輝きを放つ、美しい指輪が現れた。
「うわぁ、綺麗……っ」
彼女は親指と人差し指で指輪を摘まみ、吐息を漏らす。
しかし、その直後――リアは指輪を元の場所へ戻し、小箱ごとこちらへ手渡してきた。
「ど、どうしたんだ……?」
どこか気に入らないところでもあったのだろうか?
そんな不安と焦燥感に駆られていると、
「も、もしよかったらその……。つけてもらってもいいですか……?」
彼女は顔を赤くしながら、左手をスッとこちらへ突き出した。
「……っ」
その色艶のある言葉遣いと仕草に、胸の鼓動が一瞬にして速まった。
「あ、あぁ……もちろんだ」
俺は決して落とさないようそっと指輪を摘まみ、それをリアの細くて綺麗な人差し指へ通した。
「あ、ありがとう、アレン……っ。一生の宝物にするわ……!」
彼女はこれまでで一番幸せそうな表情を浮かべ、指輪のついた左手を愛おしそうに撫でた。
「そ、そうか……っ。俺もそう言ってもらえて本当に嬉しいよ」
こうして俺は、桜色の美しい指輪をリアへプレゼントすることができたのだった。




