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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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桜の国チェリンと七聖剣【八】


 俺はゴホンと咳払いをしてから、机上に置かれたルーレットへ視線を落とす。


「ルーレットの出目を操るためには、その『形状』を理解することが大切です。たとえばこれには、『ツマミ』のところに小さなギザギザがありますよね?」 


「えぇ、確かにあるわ」


()まみやすくするための溝ね」


「ふむふむ、それでどうすればいいんだ?」


 三人は期待に満ちた目でこちらを見つめ、話の続きを促した。


「実はツマミに溝のあるルーレットは、一番出目を操りやすいタイプなんですよ。ですから、ここから先の話は気を楽にして聞いていただければと思います」


 そう前置きしてから、本題へ入っていく。


「ここにある小さな溝は、全部で三十六本。今回はこの均等に割り振られた『大ヒント』を利用します」


「「「溝を……?」」」


「はい。ポイントは二つ、ルーレットを回すときの力は必ず一定にすること。そして親指の腹で『何本分の溝をスライドさせたか』、これをしっかり認識することです。たとえば俺の場合、十本分の溝を親指でスライドさせれば、きっかり十周して元の出目に戻ります。ちょうどこんな風に……っと」


 そうして勢いよくルーレットを回せば――宣言通り、十周した後に再び『十の目』で停止した。


「う、そ……!?」


「す、凄い……!」


「本当に宣言通りじゃないか……っ」


 会長とリアとリリム先輩は、まるで魔法でも見たかのように大きく目を見開いた。


「『スライドさせる溝の本数』と『出目の関係』さえ掴めば、後はもうミリ単位の微調整を加えるだけです。ルーレットを十周させてから一マス進めたければ、溝を十・一本分スライド。十周させてから二マス進めたければ、十・二本分スライド。――っとまぁこんな風にして、ルーレットの出目は自在に操れるんですよ」


 そうして全ての説明を終えた俺は、短く話を締めくくったのだが……。


「そ、そんな簡単に言われても……」


「アレン、ちょっとそれは『人間』の私たちには早過ぎるわ……」


「ミリ単位の微調整って、考えただけで頭が痛くなるぞ……!?」


 会長たちは渋い表情のまま、静かに首を横へ振った。


「初めは難しく感じるかもしれませんが、慣れてしまえば大丈夫ですよ。基本は剣術と同じ、体が(・・)覚える(・・・)まで(・・)ひたすら何度も反復練習です」


 剣を振るうとき、どこで力を抜きどのタイミングで体重を乗せるべきか。

 戦闘中にそんな複雑なことを考えている余裕はない。


 俺たち『剣士』は、いつでもどこでもどんな態勢でも最高の斬撃を放てるように修業をする。

 毎日毎日繰り返し素振りをして、その動きを体に(・・)覚え(・・)込ませる(・・・・)のだ。


 つまり――このルーレットの出目を操る技術も、根っこの部分では剣術と同じだと言える。


「な、なるほど……っ」


「そう言われてみれば、そうかもしれないわね……」


「確かに剣を振るときは、難しいことは何も考えていないな……」


 親しみのある『剣術』という例え話が利いたのか、三人は納得したとばかりに頷く。


「俺もできる限りのサポートをしますから、ちょっとだけ練習してみませんか?」


 そんな提案を持ち掛ければ、


「そう、ね……。アレンくんが横に付いていてくれるなら、なんだか不思議とできそうな気がしてきたわ……!」


「アレン、よろしくお願いするわね!」


「よし、とりあえずやってみるか!」


 三人はやる気に満ちた表情でコクリと頷いた。


 それから練習すること、およそ一時間。


「や、やったわ……!」


「で、できた……!」


 手先の器用な会長とリアは、早くもコツを掴んでいた。


「ぐ、ぐぬぬ……。やっぱり難しいぞ、これは……っ」


 その一方で大雑把な性格のリリム先輩は、少し手こずっているようだが……。

 それでも、狙った数字の近辺には出目を操作できていた。


「――アレン、これ(・・)本当に凄いわ! あなた天才よ!」


 リアは子どものようにはしゃぎながら、尊敬の眼差しを向けてきた。


「あはは、喜んでもらえて何よりだよ」


 彼女の嬉しそうな笑顔を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。


「なるほど、確かにこれは技術と呼べるわね……っ」


 会長は手元のルーレットに視線を落としながら、しみじみとそう呟いた。


(ふぅ、よかった。『技術』と『イカサマ』の違いについては、ちゃんと納得してもらえたようだな……)


 そうして俺がホッと胸を撫で下ろした次の瞬間、


「さて、それじゃアレンくんと条件が対等になったところで――」


「もう一度、人生ゲームを始めましょうか!」


「ふっふっふ、勝負はここからだな!」


 三人は意気揚々とゲームの準備に取り掛かった。


(じょ、冗談だよな……?)


 この人生ゲームをやるのは、次でもう『四回目』だ。


「あ、あの……さすがに飽きませんか? そろそろ別のことを……」


「いいえ。アレンくんに勝つまでは、ずっと飽きないわよ?」


「ヴェステリアの王女たるもの、敗北したままおめおめと引き下がれないわ!」


「ふっ、勝ち逃げは許さんぞ!」


 その目は完全に()わっており、このままでは永遠に続きそうな勢いだった。


(これはもういっそのこと、わざと負けてしまった方がいいか……?)


 いやしかし、剣士の勝負は真剣勝負だ。

 手を抜くことは、彼女たちを侮辱することに繋がってしまう。


(こんなとき、いったいどうすればいいんだ……!?)


 そうして俺が頭を悩ませていると、


「――本機はこれより十分後、桜の国チェリンへ到着します。着陸の際は、シートベルトの着用をお願い致します。繰り返します。本機はこれより十分後――」


 これ以上ないほど完璧なタイミングで機内放送が流れた。


「そ、そうだ! 俺はローズとフェリス先輩を起こしてきますね!」


「あっ、ちょっと!? 待ちなさい、アレンくん!」


「まだ勝負は終わってないわよ!?」


「もう一戦、せめて後もう一戦だけでも……!」


「あ、あはは……。それはまた別の機会にしましょう?」


 こうして『人生ゲームの無限ループ』から脱出した俺は、飛行機の最奥にある仮眠室へ移動したのだった。

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