表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

228/445

入学試験とバレンタインデー【二十五】


 俺とリアの剣戟(けんげき)は、壮絶を極めた。


「うぉおおおおおおおお……!」


「はぁああああああああ……!」


 <暴食の覇鬼(ゼオン)>と<原初の龍王(ファフニール)>がぶつかり合うたび、赤黒い火花が宙を舞う。


「八の太刀――八咫烏(やたがらす)ッ!」


「覇王流――連槍撃(れんそうげき)ッ!」


 俺の放った八つの斬撃に対し、リアは黒炎の灯った連続突きで迎え撃つ。


 しかし、お互いの身体能力には、あまりにも大きな差があった。


「なっ、きゃぁ……!?」


 八咫烏の威力に押された彼女は、大きく後ろへ吹き飛ばされた。


(勝機……っ!)


 俺はこの隙を逃さず、一気に距離を詰めていく。


「ち、近付かないで……龍の激昂(ドラゴニック・ロアー)ッ!」


 リアが剣を振るえば、黒白入り交じった炎が広範囲に散らばった。

 規則性のない範囲攻撃、かつてはこの技に苦労させられたが……。


 それも今となっては昔の話だ。


「甘い……!」


 俺はその攻撃を気にも留めず、一直線に駆け抜けた。


(――よし、思った通りだ。これぐらいの攻撃ならば、闇の衣で防ぎ切れる!)


 肩や胸にいくつもの炎を浴びたが、ほんのわずかな熱さえ感じない。


「う、嘘でしょ……っ!?」


 まさかこれほど容易く龍の激昂を破られるとは、思ってもいなかったのだろう。


 リアは大きく目を見開き、唖然(あぜん)とした表情を浮かべた。


(ここだ……っ!)


 その勢いのまま『必殺の間合い』へ踏み込んだ俺は、最高最速の一撃を放つ。


「七の太刀――瞬閃(しゅんせん)


 神速の居合斬りを感じ取ったリアは、


「……っ」


 ギュッと歯を食いしばり、目をつぶった。


 その結果――<原初の龍王>は枯れ木の如く両断され、真の黒剣は彼女の首筋から一ミリ離れたところで静止する。


「こ、降参……私の、負けよ……っ」


 リアはゆっくりと目を開け、その場で膝を突く。

 こうして俺はバレンタインのチョコを懸けた、壮絶な一騎打ちに見事勝利した。


「ふぅ……。それじゃ、今から傷を治すから動かないでくれよ?」


 右手から放出した闇を彼女の全身に(まと)わせれば、その体にあったいくつもの切り傷が一瞬にして完治した。


「あ、ありがと……。やっぱりアレンは、とんでもなく強いわね……」


「あはは、そう言ってもらえると嬉しいよ」


 そんな風にちょっとした雑談を交わしたところで、いよいよ『本題』へ入ることにした。


「な、なんというかその……。アレ(・・)、もらってもいいかな……?」


 はっきり「リアのチョコが欲しい」と言うのは、さすがに少し恥ずかしかったので……ちょっと曖昧(あいまい)な表現を使う。


「そ、そうね。約束したもんね……っ」


 彼女は頬を朱に染めて覚悟を決めたように頷き、


「は、はい……。ど、どうぞ……っ」


 気恥ずかしそうに視線を逸らしながら、可愛らしい動物がデザインされた長方形の小包を差し出した。


「あ、ありがとう……!」


 夢にまで見たリアの手作りチョコ。

 それが今、この手の中にあった。


「た、食べてもいいかな……?」


「え、えぇ、もちろんよ! ヴェステリアの最高級チョコをたっぷり使ったから、きっととんでもなくおいしいはずよ?」


「へぇ、それは楽しみだな!」


 期待に胸を膨らませながら、丁寧に梱包を剥がしていく。


 そうしてゆっくり蓋を開けるとそこには――。


「「……あっ」」


 ひどく(いびつ)な形をした、三つのチョコレートが並んでいた。 


(こ、これは……。ハート型のチョコ、か……?)


 おそらく先ほどの戦いで、<原初の龍王>の熱を受けたために溶けてしまったのだろう。

 そこにあったのは、ただただのっぺりとした黒い塊だった。


「ご、ごめん……っ」


 リアはそう言って、大慌てでチョコの入った小包を抱え込んだ。


「え、えーっと……」


 こんなとき、いったいどう言葉を掛けたらいいのだろうか。


 そうして俺が戸惑っていると、


「あ、あーぁ……。私ってほんと馬鹿だなぁ……っ」


 彼女は今にも泣きそうな顔でたどたどしく言葉を紡ぎ、


「ごめんね、アレン……。やっぱり直接渡すのは、恥ずかしくて……。それにあなたはたくさんチョコをもらっていたから、どうしても『記憶に残る特別なもの』にしたくて……。それでその……っ」


 最後まで言い切ることができず、その場に塞ぎ込んでしまった。


(なるほど……。俺に戦いを挑み、手作りチョコをその景品にすることで、記憶に残る特別なものにしようとしたのか……)


 確かにこんな渡され方をしたら、そうそう忘れることはできない。

 これ以上ないほど、ばっちりと記憶に刻まれるだろう。


(……嬉しいな)


 リアがここまで俺のことを考えてくれたことが、何よりもその温かい気持ちが、どうしようもなく嬉しかった。


 (あい)らしくて(いと)しくて、思わず抱き締めたくなるほどの衝動に駆られた。


(だけど、それはまだ早い……っ)


 俺たちは、まだ『その段階』へ進んでいない。


 それから俺は(はや)る気持ちを鋼の精神力で抑え込み、彼女を安心させるよう優しい声で話し掛けた。


「――なぁ、リア」


「……なに?」


 彼女は潤んだ目でこちらを見上げ、小さく首を傾げる。


「俺は一人の男として、君の作ったチョコが欲しい。だから、もしよかったら……その手作りチョコをプレゼントしてくれないか?」


「…………え?」


 俺はつまらない羞恥の感情を捨て去り、「リアのチョコが欲しい」と強く言い切ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんなことを言っていいのかわかんないけど、会長が好きだから、アレンには会長を選んでほしかったな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ