表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/445

入学試験とバレンタインデー【二十二】


 イドラの生成した毒物――正式名称チョコレート。

 俺は目の前に五つと並んだそれらを一気に口へ放り込んだ。


 その瞬間、


「ぐ、ぉ……っ!?」


 驚異的な『マズさ』が口内を駆け巡り、食道が燃えるように熱くなった。


(これ、は……!?)


 信じられないことに、彼女の手作りチョコは全て異なる『味付け』が施されていた。

 一つ一つが『必殺の威力』を誇る毒物たちは、俺の口内で未知の反応を引き起こし、暴虐(ぼうぎゃく)の限りを尽くす。


 三分後――これまで経験したことのない『味の暴力』になんとか耐え抜いた俺は、


「はぁはぁ……。ご、ごちそうさまでした……っ」


 小刻みに震える両手をゆっくりと合わせ、食後の挨拶を口にした。


「お、おいしかった……?」


 イドラは期待に目を輝かせながら、コテンと小首を傾げる。

 そんな純粋無垢(じゅんすいむく)な表情で問われたら、正直に「これは毒だね?」などと言えるはずがない。


「……あぁ、凄いよ。まさに天にも昇る味だった」


 そうして嘘偽りのない率直な感想を口にすれば、


「そ、そっか……っ。よかった……!」


 彼女は幸せそうに微笑み、小さなガッツポーズを作った。


(……うん、頑張った甲斐はあったな)


 こんなに嬉しそうなイドラの顔は、今まで見たことがない。

 勇気を振り絞ってチョコを食べたのは、正しい選択だったようだ。


 その後、俺たちはちょっとした雑談を交わしてから別れた。


 イドラはチラチラとこまめに振り返っては、どこか名残(なごり)惜しそうに手を振る。

 そのたびに手を振り返せば、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 そうして俺は、イドラの姿が完全に見えなくなるまで見送ったのだった。



 イドラと別れた後、


「ふぅ、さすがにきつかったな……」


 俺は腹部をさすりながら、大きく息を吐き出す。


 あれほどの『死闘』は、去年の四月頃にリアやローズと一緒にラムザックを食べたとき以来だ。


(あのときは食べ切れなかった分をリアに渡すことで、なんとか事なきを得たが……)


 今回はそういうわけにもいかず、想像を絶する苦戦を強いられた。


 そうして俺が呼吸を整えていると――今の一幕をこっそり見ていたのだろう。

 不安そうな顔をしたリアとローズが、すぐにこちらへ駆け寄って来た。


「アレン、大丈夫なの? 顔が土色になっているわよ……?」


「イドラからチョコレートをもらっていたようだが……。そこまでひどい味だったのか?」


「……いや、平気だよ。ちょっと『癖』はあったけど、とてもおいしかったからな」


 俺はそう言って、彼女の名誉を守るために無理くり笑顔を作った。


 するとその直後、キーンコーンカーンコーンと部活動の終了を告げるチャイムが鳴り響く。


「――っと、もうこんな時間か。そろそろ帰る準備をしないとな」


 俺はこの話題を打ち切るため、校庭の隅に置いた自分の荷物を取りに向かった。


「……ん、なんだこれ?」


 俺の鞄の上には『アレンくんへ』と書かれた、一通の便箋(びんせん)があった。


(俺宛の手紙……誰からだろう?)


 ぼんやりそんなことを考えながら、便箋の中に入った一通の手紙へ目を通していく。


 アレンくんへ


 屋上で待っています。

 一人で来てくれると嬉しいです。


 それはたった二行だけの短い手紙だった。

 差出人の名前はどこにも書かれていなかったけど、この便箋と女の子らしい可愛い丸文字には見覚えがある。


(会長から、だよな……?)


 つい先日――たった一人で神聖ローネリア帝国へ行った彼女が、生徒会室に残した書き置き。

 あれとほとんど同じ柄の便箋が使われており、手紙に書かれてある文字もそっくりだった。


 匿名の差出人は、ほぼ間違いなく彼女だろう。


 すると、


「――アレン、どうかしたの?」


「それは手紙か……?」


 素早く帰り支度を済ませたリアとローズは、そう言って小首を傾げた。


「あぁ、差出人の名前はないけど……。多分会長からだろうな」


 なんの気なしにそう呟いた次の瞬間、


「「……っ」」


 どういうわけか、二人の顔に緊張が走った。


「あ、アレン……。なんというかその、もし差し支えがなかったら……っ。なんて書かれているか、教えてもらえないかしら……?」


「わ、私からもぜひお願いしたいな……っ」


 リアとローズは唾を呑み、声を震わせながらそう問い掛けてきた。


「そんな大したことは書かれてないぞ? なんでも『一人で屋上へ来てほしい』とのことだ」


 そうして簡単に手紙の内容を伝えてあげれば、


「お、『屋上』に『一人』で……っ!?」


「な、なるほどな……。勝負を仕掛けにきたというわけか……」


 二人は険しい顔でそう呟き、口を一文字に結んだまま黙り込んでしまった。


「……」


「……」


「……」


 薄暗くなった校庭の隅で、なんとも言えない重苦しい空気が流れ出す。


 そのまま一分二分と経過していき、手足が少しずつ冷たくなってきたところで――俺はたまらず声をあげた。


「え、えーっと……。あまり会長を待たせると面倒なことになるし、ちょっと屋上まで行ってくるぞ?」


「そう、ね……。わかったわ……」


「……私たちはここで待っておこう」


 リアとローズは暗い表情のまま、ただコクリと頷いた。


「用件が済んだら、すぐに戻ってくるよ」


 そうして二人を校庭に残した俺は、本校舎の屋上へ足を向けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 天にも昇る(生命的な方で)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ