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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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入学試験とバレンタインデー【十六】


 会長に呼び出されたあの日から、ちょうど一週間が経過した。


 今日は二月十四日、いわゆる『バレンタインデー』というやつだ。

 一人の男として、この日はさすがに少し意識してしまう。


 時刻は朝の八時半。

 朝支度を終えた俺とリアは、千刃学院の本校舎へ向かっていた。


「ふぅ、まだまだ寒いわねぇ……」


 ワインレッドのマフラーを巻いた彼女は、両手に吐息(といき)を吹きかけながらそう呟いた。

 仕草も言動も雰囲気も、本当に全てが『いつも通り』だ。


(さすがにこれは望み薄だな……)


 正直に言えば、心のどこかで少し期待していた。

 もしかしたら、リアからチョコレートをもらえるのではないか、と。


 しかし、どうやらそれは俺の思い上がりだったようだ。


(まぁ、当然と言えば当然だよな……)


 片やド田舎出身の落第剣士、片やヴェステリア王国の王女様――さすがに身分が違い過ぎる。


(でも、やっぱり気になる……)


 リアは誰かにチョコをプレゼントするのだろうか。

 そもそもヴェステリア王国に、バレンタインデーという風習はあるのだろうか。


 俺はそんな悶々(もんもん)とした思いを抱きながら、


「あぁ、今日も冷えるな……」


 できる限りの自然体を装って、そう返事をしたのだった。



 一年A組に到着した俺たちは、いつものようにクラスのみんなと朝の挨拶を交わす。

 バレンタインデーということもあってか、教室内にはなんともいえないピリッとした空気が漂っていた。


 自分の席に着いた俺が、鞄の中の教科書を机の中へ移し替えていると、


「――アレンくん。はい、どうぞ!」


「喜べー、チョコレートだぞー!」


「ふふっ、あまり味には期待しないでね?」


 信じられないことに、三人の女子が可愛らしい小包に入ったチョコをプレゼントしてくれた。


「あ、ありがとう……っ」


 予想外の展開に、俺は少しだけ言葉を詰まらせてしまった。


後が(・・)怖い(・・)から(・・)、先に言っておくけど……。それ、義理チョコだからね?」


「間違って本命なんか渡そうものなら、とんでもなく荒れる(・・・)だろうからなー」


「『アレンくんのレース』へ参加するには、それ相応の覚悟(・・)が必要だものね……」


 彼女たちは苦笑いを浮かべながら、何故かリアの方へ視線を向けた。


「俺のレース……?」


 よくわからない言葉に小首を傾げていると、


「あはは、こっちの話よ。気にしないでちょうだい」


「また今度でいいから、味の感想を聞かせてくれよー?」


「ホワイトデー、楽しみにしているわね」


 彼女たちはそう言って、そそくさと席へ戻っていった。


「あっ、うん。みんな、ありがとうな」


 そうして俺が三つの可愛らしい小包を鞄の中へしまっていると、


「ふ、ふーん……。た、たくさんもらえて、よかったじゃない……っ」


 リアは声を震わせながら、ポツリとそんなことを呟いた。


「あぁ。まさか三つももらえるなんて、思ってもいなかったよ」


「そ、そう……」


 彼女は複雑な表情を浮かべ、そのまま黙り込んだ。


「……」


「……」


 その後、お互いの間になんともいえない微妙な空気が流れる。


(い、いったいどうしたんだ……?)


 さっきまでは、いたって普段通りのリアだったのに……。

 今は不安や焦りが入り混じった、とても難しい顔をしている。


(何か気に障るようなことを言ったかな……?)


 そうして俺が頭を悩ませていると――後ろの扉が勢いよく開かれ、そこからローズが入ってきた。


(あれ、珍しいな……)


 とてつもなく朝に弱い彼女は、芸術的な寝癖をこしらえ、寝ぼけまなこで登校してくるのが日常だ。


 しかし――今日に限っては、大きく様子が違っていた。


 髪はきちんと整い、目もしっかりと開いて凛とした空気を纏っている。


(ローズは、誰かにチョコを渡すのかな……?)


 ぼんやりそんなことを考えていると――彼女は真っ直ぐこちらに足を進め、俺の目と鼻の先で止まった。


「――アレン、今日はバレンタインデーだ。もしよかったら、これを受けて取ってほしい」


 そうして彼女は、桜のはなびらが描かれた美しい小包を取り出す。


「こ、これは……?」


「口に合うかはわからないが……。早起きして作った、私の手作りチョコクッキーだ」


 まさかあのローズからチョコをもらえるなんて、全く想像さえしていなかった。


「ありがとう、本当に嬉しいよ!」


 きちんとお礼を伝えてから、ありがたくその小包を受け取ると、


「……お前は少し鈍感だからな。この際、はっきりと言っておこう」


 彼女は真剣な表情で真っ直ぐ俺の目を見つめた。


「――私はアレン=ロードルという男に対し、一人の女として少なからずの好意を抱いている。そのことは、しっかり覚えておいてくれ」


 ローズはわずかに頬を赤く染めながら、普段はあまり見せない可愛らしい笑みを浮かべたのだった。

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