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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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入学試験とバレンタインデー【七】


 突如発生したトラブルに対処するため、俺が小型のトランシーバーで連絡を回すと、


「――こちらレイア。どうした、何があった?」


 理事長室で待機中の先生から、素早い返答があった。


「すみません。グラン剣術学院の後輩から、なにやら私怨(しえん)を買っているようでして……」


「そうか。ならば、ぶちのめせ。――以上だ」


 そんな短い回答と共に、通信はプツリと断たれた。


「いや、ぶちのめせって……」


 あまりにもあんまりなその答えに、俺は思わず肩を落とす。


(この感じ、多分アレ(・・)だな……)


 通信が切れる直前、紙をめくるような音が聞こえた。

 きっと今頃、『週刊少年ヤイバ』の今週号を必死に読み込んでいるんだろう。


(大事な入学試験なのに、ほんと相変わらずだなぁ……)


 そうして俺がため息をこぼしていると、


「どうする、アレン?」


「お前にはこの後、『特別試験』の監督という大事な仕事がある。なんだったら、私たちが片付けようか?」


 リアとローズが小さな声で指示を求めてきた。


「そうだな……。今回は俺が出ることにするよ」


 今標的となっているのは、『グラン剣術学院のアレン=ロードル』だ。

 もしここでリアとローズがあの三人組を追い払えば、彼らはまたいつの日か俺の前に立ち塞がるだろう。


 過去の因縁は、しっかりここで断ち斬っておかなければならない。


「さてと……それじゃ、やろうか?」


 俺は一歩前に踏み出し、戦う意思を示した。


(先生も『ぶちのめせ』と言っていることだし、早いところ終わらせてしまおう)


 試験開始の午前九時までは、後もう五分ほどしかない。

 あまり時間を掛け過ぎたら、この後の予定が押してしまう。

 ただでさえ緊張している受験生たちに、これ以上の負担は掛けたくない。


 俺がそんなことを考えていると、


「へっ! この大人数の前で、嘘で塗り固められたてめぇの正体を暴いてやるよ……落第剣士アレン=ロードル!」


「グラン剣術学院の最底辺が……! これまで粋がってきたツケを払わせてやるぜ!」


「親愛なるドドリエル先輩の(かたき)……っ! ボロ雑巾になるまで痛め付けて、(さら)し者にしてくれる!」


 彼らは口汚い言葉を次々に吐き捨て、嫌な空気を作り上げていく。


「……お互いに剣士なんだ。『口』じゃなくて、『剣』で語らないか?」


 ほんの少しだけ殺気を放ちながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「「「……っ!?」」」


 すると三人は顔を青く染めて、大きく一歩後ずさった。


「……は、はったりだ! あの『ペテン師』の話術に引っ掛かるな! い、一気に仕留めるぞ!」


「「お、おぅ……っ!」」


 そうやって自分たちを奮い立たせるように大声を張り上げた次の瞬間、


「燃え上がれ――<巨炎の戦斧(フレイム・アックス)>ッ!」


「吹きさらせ――<突風小僧(ウィンド・キッド)>ッ!」


「斬り捨てろ――<三枚刃の曲剣(トリプル・ブレード)>ッ!」


 彼らは一斉に魂装を展開した。


「……これは凄いな」


 まさか魂装の授業を受けず、自分の力だけで発現するとは……。

 どうやらこの三人には、俺なんかとは比較にならないほどの才能があるようだ。


「へへっ、どうだ驚いたか?」


「あぁ、驚いたよ」


 俺が率直な感想を口にすると、彼らの目の奥に危険な色が浮かび上がった。


「ぐっ、その余裕の態度がいつまでもつか……。見せてもらおうじゃねぇかぁああああ!」


「舐めるなよ、落ちこぼれのゴミ屑剣士がぁああああ!」


「死ねぇええええ!」


 三人はけたたましい雄叫びをあげて、一斉に襲い掛かってきた。


 向かって右側から、鋭い風の斬り上げ。

 左側から、三枚刃の袈裟切り。

 そして真っ正面から、灼熱の炎を纏った斬り下ろし。


 三方面から放たれた、息の合った同時攻撃。


(――だけど、修業不足だな)


 まず握りが甘い。

 踏み込みが浅い。

 斬撃に体重が乗っていない。


 彼らは『魂装』という絶大な力に手を伸ばすあまり、剣術において最も基本的な修業――『素振り』を(おろそ)かにしてしまったようだ。


 俺はぼんやりそんなことを考えながら、左腰に差した剣へゆっくりと手を伸ばす。


 そして鋭い三本の刃が目と鼻の先に迫ったその刹那(せつな)


「七の太刀――瞬閃(しゅんせん)


 音を置き去りにした神速の居合斬りが世界を駆け抜けた。


「なっ!?」


「……は?」


「なん、だよ……これ……っ!?」


 その一撃は三人の魂装をいとも容易く叩き斬り、支えを失った刀身はゆっくりと地に落ちた。


 カランカランと虚しい音が鳴り響く中、彼らは信じられないといった表情で固まってしまった。


「降参してもらえると助かるんだけど、どうかな?」


 剣士の勝負は、真剣勝負だ。

 しかし、今みたく明らかに決着の付いた状態で、さらに追撃を仕掛けるのは好ましくない。


 できることならば、このまま大人しく立ち去ってくれると助かる。


「く、そ……っ」


「トリックじゃ、ない……!?」


「お、覚えてやがれ……!」


 彼らは三者三様の反応を示しながら、一目散に駆け出していった。


(ふぅ、なんとか丸く収めることができたな……)


 ホッと胸を撫で下ろした俺がゆっくりと振り返れば、


「は、速ぇ……っ。いつ剣を抜いたか、全く見えなかったぞ!?」


「三人の魂装使いを相手にして、あの余裕っぷり……。格が違うわ……」


「やっぱ凄ぇな……。『一年生最強の剣士』は伊達じゃねぇぜ……っ」


 今の戦いをジッと見守っていた受験生たちが、何やら大きなざわめきを見せていた。


「たったの一撃で受験生の心を鷲掴(わしづか)みにするなんて……さすがはアレンね!」


「ふっ。あの三人は、ちょうどいい『やられ役』になってくれたようだな」


 リアとローズはそう言って、どこかスッキリした表情を浮かべた。


「あはは。まぁ、何事もなく無事に終わってよかったよ」


 こうしてグラン剣術学院から続く因縁を断ち斬った俺は、これから実施する今年度だけの『特別試験』について説明を始めるのだった。


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