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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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入学試験とバレンタインデー【五】


 レイア先生は俺たち三人に入学募集要項を配り、簡単に概要を説明した。


「入学試験の実施日は、約三週間後の二月一日。こちらが考えているのは、主任試験官にアレン。その補佐としてリアとローズに付いてもらう形なんだが……どうだ? 引き受けてもらえないだろうか?」


 彼女はこれまで見せたことのないような真剣な表情で、ジッとこちらを見つめる。


「え、えーっと……。どうして俺が主任試験官を……?」


「まぁこれは、いわゆる『伝統』というやつでな。基本的に『五学院』の入学試験では、昨年度の成績優秀者が試験官を受け持つことになっている。おそらく氷王学院はシドー、白百合女学院はイドラが主任試験官となるだろう」


「そうなんですか……」


 伝統と言い切られてしまうと、反論をするのは難しい。


(でも、イドラはともかくとしてあの(・・)シドーさんが試験官か……)


 今年氷王学院を受験する生徒は、かなり苦労しそうだな。


「ちなみに昨年はシィが主任試験官、リリムとフェリスがその補佐役を務めている。――どうだ、アレン。ぜひ引き受けては、もらえないだろうか?」


 先生はグイッとこちらに顔を寄せて、今この場で返答を求めてきた。


(元々けっこう強引な人だけど、今日はなんかいつもより『押し』が強くないか……?)


 俺がちょっとした違和感を覚えていると、


「ねぇ、レイア……これは何かしら?」


 リアはそう言って、募集要項のとあるページを指差した。


「ぐ……っ」


「こ、これは……!?」


 なんとそこには――いつの間に撮ったのか、俺が漆黒の衣を纏いながら剣を構えている写真が載っていた。


 しかもその隣には『悪の剣士アレン=ロードルに一太刀を加えた受験生は、その場で一発合格だ!』という強烈な一文が添えられている。


「は、ははは……っ。なんというかそれは……あ、煽り文句というやつだ! 少しばかり表現は刺激的かもしれないが……。広告というのは、得てしてそういうものだろう?」


 先生は視線を右往左往させながら、ガシガシと頭を掻いた。


「ほぅ、こちらのページにはこんなのもあったぞ。『アレン=ロードルの魔の手から、千刃学院を救うんだ!』――いささか『煽り』が過ぎると思うが……?」


「そ、それは……っ」


 リアとローズの指摘に先生は言葉を詰まらせていた。


(しかし、『悪の剣士』に『魔の手』か……)


 なんともまぁ酷い書かれようだ。


「この話、なんかきな臭いのよねぇ……。何かしらの『裏』を感じずにはいられないわ」


「五学院が優秀な生徒を試験官とするというのは、確かに一部では有名な話だが……。一人の生徒をここまで前面に押し出した試験は、さすがに前代未聞ではないか?」


 二人が鋭い眼光を飛ばすと、


「ふぅ、わかった……。全てを話そう……」


 先生は観念したかのように肩を落とし、ゆっくりと話を始めた。


「恥ずかしい話だが、現状うちの財政状況は非常に苦しくてな……。その理由は君たちも知っての通り、去年の九月に本校舎を丸々再建築したためだ。一応国から多額の補助金が下りてはいるんだが……。それでも積立金の大部分を切り崩すことになり、今年度の収支は大幅な赤字が見込まれている……」


「そ、そうなんですか……」


 本校舎の再建築。

 その原因となったのは、フー=ルドラスとドドリエル=バートンが突如千刃学院を襲撃したあの事件だ。


 圧倒的な力を誇るフーを前にして、一時は絶体絶命の窮地に立たされたが……。

 俺の体を奪い取ったゼオンが派手に暴れた結果、無事に事なきを得た。


 しかし、その代償として本校舎が完全に崩壊してしまったのだ。


「現在の国際情勢は非常に不安定だ。来年もまた千刃学院が標的になるかもわからん……。その自衛策という意味でも、優秀な人材を確保したい。多数の受験者を掻き集め、その受験料で財政の健全化を図りたい。私たち千刃学院の教員一同は、この二つの目的を達成するために連日夜通しの会議を行った。そこで白羽の矢が立ったのが――アレン、君だよ」


「えーっと……どういうことでしょうか?」


 何故そこで俺の名前が出てくるのか、全くわけがわからない。


「『アレン=ロードル』という名は、今や皇国中に響き渡っていると言っても過言ではない。我々はその名声を利用……活用させてもらって、優秀な受験生の確保と多額の受験料の獲得を目指したのだ!」


 先生はそう言って、なんとも無茶苦茶な計画を高らかに(うた)い上げた。


(俺の名前はそこまで有名じゃないし、そんな宣伝効果は絶対にないんだけどなぁ……)


 そうして苦笑いを浮かべている間にも、先生は言葉を紡いでいく。


「基本戦略を固めた我々は、すぐに活動を開始した。オーレストの街へ足を運び、君の美談や評判を掻き集めた。しかし、そこで大きな問題が発生したんだ……」


「大きな問題……?」


「いったいどういうわけか、アレンの評判は驚くほどに悪かった(・・・・)……。黒の組織を何度も撃退し、魔族の襲撃から天子様を守り、そのうえ人類史上初となる『呪いの特効薬』さえ開発した。君はこれまで皇国を救う英雄級の活躍をしているはずなんだが……。やれリゼと手を組んで国家転覆を企てているだの、裏では魔族と繋がっているだの……。挙句の果てには『神託の十三騎士ではないのか?』とまで言われていたよ……」


「そ、そこまでひどくなっていたんですか……」


 俺の評判がとてつもなく悪いことは、知っていたけれど……。

 最後の噂については初耳だ。


「大幅な方針転換を迫られた我々は、『それならば!』と逆転の発想を取り入れた。君にはもう、徹底して悪役になってもらおうと考えたのだ。しかし、これは我々としても苦肉の策なんだ……っ。本心から君を悪だと思っている教員は、千刃学院には一人もいない!」


 先生はそう熱弁して、俺の両肩をがっしりと掴んだ。


「な、なるほど……」


 一応彼女の言い分は理解した。


(しかし、これはまた厄介なことになったな……)


 あんな煽り文句を流されると、ただでさえ良くない俺の評判はさらに悪化するだろう。


 そうして俺が小さくため息をこぼしていると、


「いろいろと言い訳を並べていたけど……。早い話がアレンを餌にして、いい思いをしようとしただけよね?」


「ぐっ……。そ、その通りだ……っ」


 リアの鋭い指摘が飛び、先生は下唇を噛み締めた。


「し、しかしだな! 我々の狙い通り、『アレン効果』は絶大だった! ほら、こいつを見てくれ!」


 彼女はそう言って、引き出しから一枚のプリント用紙を取り出した。


「……これは?」


「過去十年にわたる千刃学院の『受験者数の推移』だ。そして注目すべきは、ここ――今年度の受験者数をよく見てくれ!」


「これは、凄まじい数ですね……っ」


 例年の三倍以上という驚異的な数字を叩き出している。


(これが俺の効果だとは、到底思えないけど……)


 一応、先生たちの目標は達成できたようだ。


 話が少し落ち着きを見せたところで、一つ質問を投げ掛けた。


「もし俺が試験監督を引き受けなかった場合は、どうなるんですか?」


「……詐欺の誹りを受けて、我が校は『詰む』な」


「……なるほど」


 どうやら相変わらず、考えなしに行動しているようだった。


「はぁ……。わかりました、引き受けましょう」


 先生には魂装の修業法や効率的な筋力トレーニングを教えてもらったりと、これまでいろいろお世話になっている。

 それに千刃学院の財政状況が苦しくなったのは、ゼオンを制御仕切れなかった俺にだって責任の一端がある。


「ほ、本当か!? 本当にやってくれるんだな!?」


「はい。ですが、今回のような勝手はもうやめてくださいね? せめて一度くらい相談をしてから――」


「――ぃよっし! よしよし、よっし……ッ!」


 先生はグッと拳を握り締め、興奮した様子で叫んでいた。


(はぁ、全く聞いていないな……)


 この様子だと、またいつか同じようなことをやるだろう。


「ねぇ、アレン……。前にも一度言ったと思うけど、もう少し人に厳しくした方がいいわよ? ……多分、変わらないと思うけど」


「全くだ。その優しさは美点でもあるが、欠点でもあるぞ。……変えられないとは思うが」


 リアとローズはどこか諦めた様子で、ため息まじりにそう呟いたのだった。


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