表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

206/445

入学試験とバレンタインデー【三】


 天子様は、あまりに突拍子もないことを口にした。


(全てをひっくり返す逆転の一手が……俺?)


 それに『特異点』だなんだと言われても、どう反応したらいいのか困ってしまう。


「す、すみません。おっしゃっている言葉の意味が、よくわからないのですが……?」


 俺がそう至極真っ当な疑問を口にすると、


「まさかとは思いましたが……。やはりご自覚されていなかったようですね……」


 彼女は一瞬だけ呆れたように目を見開き、それからゆっくりと説明を始めた。


「アレン様の周りには、日を追うごとに『人』が集まっております」


「人、ですか……?」


「はい。『黒白の王女』の異名を取るヴェステリアの次期国王、リア=ヴェステリア。かつて(・・・)世界最強と謳われた、桜華一刀流の正統継承者ローズ=バレンシア。『狐金融』の元締め、『血狐』のリゼ=ドーラハイン。七聖剣の座を蹴った『奇人』、クラウン=ジェスター。神託の十三騎士、レイン=グラッド。世界的に著名な剣士たちが、あなたの人柄や将来性――不思議な魅力に()かれ、続々と『アレン派閥』に集結しています」


「あ、アレン派閥って……」


 あまりに大袈裟なその表現に、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。


「これは冗談ではありませんよ? アレン様ほどの突出した個は、世界広しといえど、そういるものではありません。わずか十五歳にして国家戦力級の剣士――神託の十三騎士を三人も斬り捨てたその武力。それに加えて、人を惹き付けてやまない不思議な力。今やアレン派閥の『立ち位置』によって、皇国の勢力図は大きく塗り替わります。あなたという存在は、それだけ大きなものとなっているのです」


「そ、そんな大袈裟な……」


 いくらなんでも、さすがにそれは言い過ぎだ。

 ほんの一年ほど前まで『落第剣士』と蔑まれてきた俺が、皇国の勢力図をどうこうできるわけがない。


「大袈裟ではありません。事実、私とロディスが今日この場へ足を運んだのは、アレン様へ『誠意』を見せるためです」


「誠意……?」


「簡潔に言うならば――あなたと敵対したくない、という意思表明です」


 天子様は終始真剣な様子で、真摯(しんし)に言葉を紡いでいく。


「昨日の一件で、おそらくアレン様は私や皇国に不信感を抱いたことでしょう」


「……そう、ですね」


 俺が正直にコクリと頷くと、彼女の瞳に一瞬だけ怯えの色が映った。


「……貴族派はまず間違いなく、この機に乗じてアレン様との接触を試みるはずです。そして万が一にも、あなたが向こう側に(くみ)すれば……。ただでさえ旗色の悪い皇族派の私たちには、もはやどうすることもできません……」


 天子様は暗い表情のまま一歩前へ踏み出し、その小さな手で俺の右手をギュッと握り締めた。


「皇族派に加わってください、とまでは言いません。おそらく私が今話した内容も、その全てを真実として鵜呑(うの)みにすることはできないでしょうから……。――ですが、どうかお願いです。貴族派の甘言に惑わされず、せめて『中立』の立場を守ってはいただけないでしょうか!?」


 彼女はそう言って、真っ直ぐ俺の目を見つめた。

 その目はどこまでも透き通っており、とても嘘をついているとは思えない。


「……申し訳ございません。一度にたくさんの情報が入ってきたため、少し頭の整理が追い付いていません」


 皇族派だの貴族派だのアレン派閥だの……。

 そんなことをいきなり言われた挙句、正しい判断を下せというのは中々に無茶な話だ。

 それに第一、天子様の話が全て本当だという確証もない。


(実際慶新会のとき、彼女は一度俺のことを刺そうとしてきたしな……)


 残念ながら、天子様を信用することができないというのが正直なところだ。


「そう、ですか……」


 俺の言葉から否定的なニュアンスを感じ取ったのだろう。

 彼女は小さく手を震わせながら、力なくそう呟いた。


「この場ですぐに判断することはできませんが……。一つだけ、はっきりと言えることがあります」


「……なんでしょうか?」


「この国には俺の大事な人がたくさんいます。だから俺は、皇族派や貴族派といった括りに関係なく、自分の剣が届く範囲でみんなを守りたいと思っています」


 ゴザ村に残してきた母さんや竹爺。

 グラン剣術学院時代、ひどいいじめに苦しんでいた俺を陰からそっと支えてくれたポーラさん。

 リアやローズ、会長にリリム先輩にフェリス先輩、それからクラスのみんな。

 最近は少し関係の改善してきたシドーさんや熱狂的な信者のカインさん。

 他にもイドラさんやリゼさんにクラウンさん。


 この国には、俺の大切な人がたくさんいる。


(国政や派閥のような難しいことは、正直あまりよくわからない……)


 だから俺は、自分の剣が届く範囲で大切な仲間たちを守る。

 十数億年の修業によって身に付けたこの剣術は、きっとそのためにあるはずだ。


「……そうですか、その言葉を聞いて安心することができました」


 天子様は安心したように微笑みを浮かべ、


「――レイア理事長。突然の訪問にもかかわらず、お時間を融通していただきありがとうございます。お陰様でアレン様との間に生まれた誤解も無事に解け、非常に実りあるお話をすることができました。では、私はまだ政務がございますので、このあたりで失礼いたします」


 優雅に一礼をしてから(きびす)を返した。


 そうして俺たちの横を通り抜け、理事長室の黒い扉に手を掛けたそのとき――彼女の足がピタリと止まった。


「……ねぇ、アレン様」


「はい、なんでしょうか?」


「またいつか、今度はちゃんと(・・・・)二人で(・・・)お茶をしませんか?」


「……えぇ、喜んで。ただ前のような乱暴だけは、ご遠慮願いますよ?」


「ふふっ、もちろんです」


 そうして悪戯っ子のように笑った天子様は、ロディスさんを引き連れて理事長室を後にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] この天子は無能なんですかね? 又はこの無能をサポートする人が普通は居るはずですがそのサポート役も無知で無能なんでしょうか。 最低でも合わせる顔は無い筈なのにサラッと出てきて謝罪も無しで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ