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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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入学試験とバレンタインデー【二】


 天子様、ウェンディ=リーンガード。

 年齢は俺たちと同じ十五歳。

 背まで伸びた、淡いピンク色の綺麗な髪。

 身長はリアとほとんど同じ、百六十五センチ前後。

 非の打ちどころの無い完璧なスタイルに、まるで天使のような優しい顔つき。

 以前慶新会(けいしんかい)で会ったときと同じ、肩口を露出した純白のドレスを纏っていた。


(この国の元首が、いったいどうして千刃学院の理事長室に……?)


 彼女の後ろには目立たない衣装を着たロディスさん、それにいつもの黒いスーツを着たレイア先生もいた。


「……お久しぶりですね、天子様」


 俺は強い警戒心を抱きながら、形式ばった礼をする。

 リアとローズもそれに(なら)い、理事長室には硬い空気が張り詰めていった。


(……天子様は会長を帝国へ売り渡した張本人だ。もう気を許すことはできない)


 そうして俺たち三人が警戒態勢で押し黙っていると、


「……やはりここへ足を運んで正解でしたね」


「はい、そのようでございます」


 彼女は悲しそうな表情でそう呟き、ロディスさんは予想通りと言った風に頷いた。


「――レイア理事長。申し訳ありませんが、アレン様との間を取り持っていただけませんでしょうか?」


「えぇ、もちろんです」


 先生は天子様の頼みを快諾し、俺たちの前に立った。


「さてと、どこから話せばいいのか非常に難しいんだが……。とにかく――昨日は本当によくやってくれたな。君たちのおかげで、『皇国の崩壊』を先延ばしにすることができたよ……ありがとう」


 彼女は少しよくわからないことを口にして、感謝の言葉を述べた。


「まぁいろいろと訳があって、仲裁役に選ばれてしまったんだが……。君たちも知っての通り、私はあまり弁論術に()けていない。わかりやすさについては、そう期待してくれるなよ?」


「はい、大丈夫です」


「えぇ、知っているわよ」


「承知している。人間、誰しも得手(えて)不得手(ふえて)があるからな」


 あれは忘れもしない去年の四月――大五聖祭の直後に開かれた、緊急の理事長会議。

 俺とシドーさんの処分を決めるその場で、先生は他の理事長から受けた挑発に乗り、議論をそっちのけで暴れ回った。

 そうして話の流れをいいように操作された結果――俺とシドーさんだけでなく、リアとローズまでも停学一か月の処分が下った。


(頼れるいい先生ではあるけれど……)


 残念ながら弁論術の(たぐい)は、全くといっていいほどに期待できない。

 これは俺とリアとローズ――三人の共通認識だった。


「即答、か……。は、ははは……生徒からの厚い信頼を感じるよ……」


 先生は少し悲しそうに乾いた笑みをこぼす。


「……あまり時間もないことだし、話を進めようか」


 どこか気落ちした様子の彼女は、ゴホンと咳払いをした。


「昨日君たちが見事阻止してくれた、シィ=アークストリアの政略結婚についてなんだが……。この極秘計画の実行にあたって、天子様は最後の最後まで『反対』していらした」


「「「……え?」」」


 予想外の発言に、俺たちは一瞬固まってしまう。


「これはここだけの話にして欲しいんだが……。現在皇国は非常に不安定な状況となっている。天子様やロディスさんを中心とした『皇族派』と大貴族を中心とした『貴族派』――この両派閥が熾烈な政争を繰り広げているんだ」


 先生はそう言って話を続けた。


「両者の違いを簡単に説明するとだな……。皇族派は国益を第一に考え、リーンガード皇国と世界の発展を望んでいる。その一方で貴族派は、皇国を神聖ローネリア帝国へ売り払い、ゆくゆくは帝国が世界征服を成し遂げることを望んでいる」


「「「なっ!?」」」


 その衝撃的な発言に、俺たちは思わず声をあげる。


「ど、どうして貴族派は、そこまで帝国に入れ込んでいるんですか!?」


 黒の組織を擁する悪の超大国が、もしもこの世界を支配すれば……それはもう地獄絵図となるだろう。


「貴族派の連中は、裏で帝国の貴族たちと繋がっているんだよ。『金持ちは金持ちとつるむ』というやつだ……。なんでも皇国を売った見返りとして、奴等は帝国の貴族に加わることが約束されているらしい」


 先生は苦虫を嚙み潰したように首を横へ振った。


「……でも、どうして貴族派がそんなに力を持っているの? ヴェステリアにもいろいろな派閥はあるけど、表立ってお父さんに逆らえるほどの力はないわよ?」


 リアは小首を傾げながら、不思議そうに質問を投げ掛ける。


「それなんだが……。厄介なことに貴族派は、聖騎士協会が誇る人類最強七剣士――『七聖剣』の一人を抱え込んでいてな……。奴等はその圧倒的な『武力』を後ろ盾にして、年々増長の一途をたどっているんだよ……」


 先生がそう言うと、今度はここまで沈黙を貫いてきたローズが口を開いた。


「七聖剣の存在は確かに驚異的だが……。こちらには『黒拳』レイア=ラスノートがいるんじゃないか?」


「私の武力を評価してくれるのは嬉しいんだが……。残念ながら、現状はかなり分が悪いと言わざるを得ない。なんと言っても私とフェリスを除く五学院の理事長、さらにリゼ=ドーラハイン以外の五豪商(ごごうしょう)は――全員、貴族派だからな」


 先生は大きく息を吐き出しながら、説明を続ける。


「中立を謳うリゼは相変わらず飄々(ひょうひょう)として、いったい何を考えているのか全くわからん……。それともう一人、白百合女学院のケミー=ファスタも一応中立派だが……。あの『万年借金女』のことだ、金を積まれればすぐにでも貴族派へ尻尾を振るだろう。――つまり早い話が、皇族派は『風前の灯火(ともしび)』に近い状況となっているんだ」


「「「……」」」


 皇国の苦し過ぎる現状を耳にした俺たちは、静かに口を閉ざした。


「結局、私が何を言いたいかというとだな……。今回の一件で最終的な意思決定を下したのは、紛れもなく天子様だ。しかし、それは貴族派からの圧力を受けた結果であり、彼女はむしろ大反対の立場を取ってくれていたということだ」


 先生はそう言って、今の話を短くまとめた。


 俺がさりげなくロディスさんの方へ視線を向けると、彼は真剣な表情で力強く頷く。

 どうやら今の話は、全て嘘偽りのない真実のようだ。


 理事長室がシンと静まり返ったところで、今度は天子様が口を開く。


「私の力が及ばず、現状皇国はかつてないほど危機的な状況に陥っています……。ただ――ここから全てをひっくり返す『逆転の一手』があります」


 彼女は瞳の奥に希望の光を宿しながら、まっすぐ俺の目を見つめた。


「逆転の一手、ですか……」


 そんな都合のいいものが、果たして本当にあるのだろうか……。


「はい、その通りです。……まだお気付きになられませんか?」


「えっと、何をでしょうか……?」


「全てをひっくり返す逆転の一手――それはアレン=ロードル様、あなたという『特異点』の存在ですよ」


「……は?」


 天子様の言わんとしていることが全く理解できなかった俺は、思わず間の抜けた声をあげてしまったのだった。

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