アレン細胞と政略結婚【五十一】
偶然ばったりと遭遇した会長とロディスさんは、お互いに大きく目を見開いた。
「お、お父さん……!?」
「シィ……!」
彼は大慌てで会長の元へ駆け寄り、そのまま力強く抱き締めた。
「あ、あぁ……本物のシィだ……っ。よがった、本当によ゛かっだ……っ!」
ロディスさんは豪快に嬉し涙を流しながら、彼女の無事を心の底から喜んだ。
「ちょ、ちょっとお父さん、みんなが見てるからやめてよ……! それになんかゴツゴツしてて、痛いんだけど……っ」
会長は恥ずかしそうにしながら、ロディスさんをグイグイと押しのけた。
この気の置けないやり取りから見るに、家族関係はかなり良好なようだ。
「あ、あぁ、すまない。そういえば、爆弾を巻いたままだったな……」
彼は涙をぬぐいながら、胴回りを一周させた大量の爆弾を取り外す。
「そ、そんなの体に巻き付けて、いったい何をするつもりだったの!?」
ロディスさんの『計画』を知らなかったのだろう。
会長は顔を青くして、輪状に連なった爆弾を指差した。
「もちろん、いざというときに自爆するためのものだ」
「じ、自爆……!?」
彼女が「わけがわからない」といった風に一歩後ずさると、
「アレン=ロードル……いったい何があったのか、詳しく聞かせてもらえないか?」
真剣な表情を浮かべたロディスさんは、事情を説明するよう求めてきた。
「はい、もちろんです」
それから俺は、今回の一件をかいつまんで説明した。
『とある筋』からスポットの位置情報を手に入れた俺たちは、それを利用して神聖ローネリア帝国へ潜入した。
スポットの先はベリオス城の十階に繋がっており、そこには見知った組織の構成員――ザク=ボンバールがいた。
何故か奴はこちらに協力的であったため、大きな戦闘になることもなく、式場であるヌメロ=ドーランの本宅へたどり着くことができた。
しかし、そこの護衛を務めていたのは、神託の十三騎士グレガ=アッシュ。
思わぬ強敵と遭遇した俺は、激しい死闘の末になんとかグレガを打ち破った。
そうして会長を救出した後は、おびただしい数の敵に追われながら、行きに利用したスポットへ走った。
最後の最後にセバス=チャンドラーの裏切りが発覚したものの、その場で戦闘になることはなく、全員無事にスポットへ飛び込んだ。
「――こうしてローネリア帝国を脱出した俺たちは、今ここにいるというわけです」
「そんなことがあったのか……」
ジッと静かに話を聞いていたロディスさんは、
「――娘を助けてくれて、本当にありがとう。この大恩は、いつか必ず返させてもらうぞ……っ」
俺たち全員の目を真っ直ぐに見つめて、深く頭を下げたのだった。
「気にしないでください。俺たちはただ、大事な友達を助けただけですから」
俺がそう言うと、リアたちはその言葉に同意するようにコクリと頷いた。
「み、みんな……っ」
「……シィは本当にいい友達を持ったな」
会長が目元に浮かんだ涙をぬぐい、ロディスさんは嬉しそうにポツリと呟く。
そうして話がひと段落したところで、
「――アレン=ロードル。……いや、今後は『アレン』と呼ばせてもらおうか」
「は、はい……っ」
ロディスさんは『大きな覚悟』を決めたような凛とした顔付きで、力強く俺の名を呼んだ。
そこには敵意や殺気とは違う、なんとも言えない『圧』があった。
「お前は魔族ゼーレ=グラザリオから皇国を守り、帝国からシィを救い出してくれた。今風の軟弱な顔立ちをしているが、なかなかどうして気骨のある男だ」
「ど、どうも……」
何故かいろいろと褒められた俺は、とりあえず小さくお辞儀をしておくことにした。
すると彼はそのままゆっくり目を閉じて、大きく息を吐き出す。
「……」
「……」
なんとも言えない沈黙が流れ始めたそのとき――ロディスさんはカッと目を見開いて、その重たい口を開いた。
「……もはや止める理由はどこにもない。――娘との交際、認めてやろう」
「え、えーっと……?」
彼の意図するところが全くわからず、俺の頭は一瞬にして真っ白になったのだった。




