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アレン細胞と政略結婚【四十九】


 スポットへ飛び込んだ俺は、『影の世界』を通り抜けてリーンガード皇国の幻霊研究所へ到着した。

 リア・ローズ・会長・リリム先輩・フェリス先輩――みんなの無事を確認した俺は、ホッと胸を撫で下ろす。


(あぁ、よかった……。全員揃って、無事に帰ってくることができたんだ……っ)


 セバスさんという例外はあったものの……。

 彼は最初から『組織側』の人間であり、ただ元の鞘に収まっただけの話だ。


 結果を見れば、俺たちは誰一人欠けることなく会長の救出に成功した。

 今回の一件は、まさしく完全勝利と呼ぶにふさわしいものだろう。


 そうして俺が安堵の息を吐き出していると、


「――アレン、無事でよかった! ちょっと遅かったから『もしかすると、向こうで何かあったんじゃないか?』って心配していたのよ」


 疲れ切った表情のリアが慌てて駆け寄ってきてくれた。

 どうやら、少し心配を掛けてしまったようだ。


「悪い、ちょっとセバスさんに呼び止められてな」


「セバスさんに……? いったいなんの用事で?」


「それは……。まぁ、ちょっとした別れの言葉みたいなものだ」


 彼が最後に口にした忠告――リアの体調については、また後でこっそり聞くことにしよう。

『健康状態』というのは、少しデリケートな話題だ。

 わざわざこんな大勢の前ですべきものではない。


 そうしてリアとの会話が短く打ち切られたところで、


「ふぅ……っ。しかし、本当にうまくやったものだな……。悪の超大国神聖ローネリア帝国へ潜入し、大貴族ヌメロ=ドーランを襲撃。さらにその護衛を任された神託の十三騎士を斬り伏せ、目標であった会長を救出。その後は、敵地のど真ん中から誰一人欠けることなく、無事に皇国へ帰還した。世界的な大ニュースだぞ、これは……」


 壁にもたれ掛かったローズが、大きく息を吐きながらそう言った。


「ふっふっふっ。まっ、この私が出向いたんだ。約束された成功という奴だな!」


「いや、リリムは――というか、私たちはほとんど時間稼ぎしかやってないんですけど……?」


 リリム先輩が自信満々に叫び、フェリス先輩が突っ込みを入れる。

 生徒会室で毎日のように繰り広げられた日常の一コマ。


(……これまで緊張の連続だったからかな)


 こんなごくありふれた日常が、どうしようもなく楽しく思えた。


 そうしてちょっとした『息抜き』が落ち着いたところで――会長が小さく息を吐き出した。


「今回の一件で顔に泥を塗られた帝国は、もしかするとみんなの命を狙ってくるかもしれないわ……。迷惑を掛けてしまって、本当にごめんなさい……っ」


 彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべ、深く頭を下げた。


 すると、


「ふっ、シィは相変わらず心配性だな……。だが、安心するといいさ。その点については、全く不安に思う必要はない!」


 何か根拠でもあるのか、リリム先輩は力強くそう断言した。


「ど、どうしてそう言い切れるの?」


「簡単なことだよ。ベリオス城から流れた緊急連絡では、『アレン=ロードルを主犯とする敵勢力』と言っていた。それに今回の一件で、結婚式をぶち壊したのはアレンくん。ヌメロをはじめとした帝国中の貴族に顔を見られたのもアレンくん。神託の十三騎士を討ったのも、もちろんアレンくんだ! もし命を狙われるとしたら――私たちのような『小物』ではなく、『特級戦力』のアレンくんになるだろう!」


 彼女がまるで他人事のようにそう言い切ると、

 

「だーかーらー……。一番それを心配しているんでしょ!」


 会長はムッとした表情で、リリム先輩をジッと睨み付けた。


「あ、あはは……。殺されないように頑張ってみますね……っ」


 国際的な大規模犯罪組織と帝国に命を狙われる。

 あまりに規模が大きくなり過ぎて、もう逆に実感が湧いてこないレベルの話だ。


(まぁ、なんにせよ……。狙いが俺一人に絞られるのならば、そちらの方が好都合だ)


 会長を救出するために帝国へ乗り込むと言い出したのは――俺だ。


 行動にはそれ相応の『責任』が伴う。

 帝国や黒の組織を敵に回すことは、最初から覚悟の上だった。


(リアたちは、危険を承知で一緒に付いて来てくれた……。彼女たちに、これ以上の迷惑を掛けるわけにはいかない……っ)


 今のように俺だけが注目を浴びたこの状況は、むしろ『ラッキー』だと言っていいだろう。


 俺がそんなことを考えていると、


「しかし、まさかあのセバスさんが黒の組織の一員だったとはな……」


 真剣な表情を浮かべたローズが、必ず触れなくてはいけない『例の一件』について切り出したのだった。

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