表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

197/445

アレン細胞と政略結婚【四十八】


『潜伏中』・『裏切った』・『陛下直属の四騎士』・『しくじった部下の粛清』――目の前で飛び交った信じられない言葉の数々に、俺たちは思わず言葉を失った。


 そんな中、


「セバス、あなたやっぱり(・・・・)……っ」


 この事態を予見していたかのように、会長だけが素早く剣を引き抜く。


「すみません、会長。どうやらここでお別れのようです」


 セバスさんは肩を竦めながら、痛々しく微笑んだ。


「……さぁ、早く行ってください。あまり長居されてしまうと、立場上(・・・)少し困ったことになりますから」


 彼はそう言って、スポットから一歩二歩と離れてみせた。


「……」


「……」


 お互いの視線が交錯し、重苦しい空気が流れる。


(まさかセバスさんが、神託の十三騎士――それも『皇帝直属の四騎士』だったなんて……っ)


 いつから黒の組織に身を置いていたのか。

 何故、グレガを斬り捨てたのか。

 どうして俺たちを逃がそうとしているのか。


 いくつもの疑問が、頭の中を埋め尽くしていく。


 すると――遠くから階段を駆け上がる三つの足音が聞こえてきた。


 おそらく、先ほど正面玄関にいた神託の十三騎士だろう。


「――とにかく今は、脱出が最優先だ。『敵』の気が変わらないうちに、早く皇国へ帰ろう」


 冷静なローズは、俺たちにだけ聞こえるよう小さな声でそう言った。


 セバスさんを指した『敵』という言葉が、グッサリと胸の奥に突き刺さる。


「もう何がなんだかわからないけど……。とにかく行くぞ、シィ!」


「難しい話は、後回しなんですけど……!」


「え、あ、ちょっと……っ!?」


 リリム先輩とフェリス先輩は、会長の手を引いてスポットの中へ飛び込んだ。

 黒い影に飲まれていく三人の生徒会メンバー。


 セバスさんはそれを悲しそうに見つめて、


「……さようなら、会長。リリム、フェリス……楽しかったよ」


 まるで今生(こんじょう)の別れでも済ますかのように、小さくそう呟いた。


 それから会長たちの後に続いて、リアとローズもスポットへ飛び込む。


(よし、これで全員無事に脱出したな……!)


 そうして最後に残った俺がみんなの元へ向かおうとしたそのとき、


「――アレン、少しいいか?」


 真剣な表情をしたセバスさんがその重たい口を開く。


「……なんでしょうか?」


 俺はいつでもスポットへ飛び込めるよう重心を後方へ置きつつ、ひとまず会話に応じることにした。


「あー、そんなに構えないでくれよ。今日のところは、君たちに手を加えるつもりはないからさ」


「『今日のところは』、ですか……」


 それは裏を返せば、明日以降は容赦なく攻撃を仕掛けてくるということを意味する。


「そう睨んでくれるな。お互いに『立場』というものがあるだろ?」


 セバスさんは困った表情を浮かべ、頬をポリポリと掻いた。


「それで……用件はなんですか?」


 あまりここで長居すれば、先に皇国へ飛んだリアたちにいらぬ心配を掛けてしまう。

 そう判断した俺は、早く本題へ入るよう促した。


「あぁ、それについてなんだが――アレンのおかげで、会長を無事に救出することができた。本当にありがとう」


 彼はこれまで見せたことのない真剣な顔つきで、深く頭を下げた。

 その真摯な態度と心の籠った言葉から、これが嘘偽りのない本心だと伝わってくる。


「『とある筋』から政略結婚の情報は入っていたんだけど……。陛下直属の四騎士という立場上、どうしても表立って動くことはできなくてね……。今回こうして会長を救えたのは、全て君のおかげだ。――本当にありがとう」


 セバスさんはそう言って、感謝の言葉を重ねた。


「アレンには、とてつもなく大きな恩ができてしまった。そのお返しになるかはわからないが……一つだけ約束させてほしい」


「約束、ですか……?」


「『友』として、たとえどんな状況でもどんな立場であっても――一度だけ君の助けになるよ」


「……そうですか。お気持ちは嬉しいですが、話半分に聞いておきますね」


 当然ながら、敵の最高幹部からの言葉を鵜呑(うの)みにするわけにはいかない。


「あぁ、今はそれでいい。大事なのは、言葉ではなく行動だからな。――それじゃ、アレン。あのおっちょこちょいでお間抜けで……どうしようもなく優しい会長のことをよろしく頼んだよ?」


 彼は今にも壊れそうな表情で、悲しそうに笑った。


「えぇ、任せてください」


「今はもう敵同士だけど……。君のその言葉は、とても心強く思うよ」


 そうして話がひと段落を迎えたところで、


「――そうだ。せっかくだし、一つだけ忠告しておこう」


 セバスさんは思い出したかのように口を開いた。


「君の大事な想い人――リア=ヴェステリアの体調には、目を光らせておくといい」


「リアの体調……?」


「おそらくそう遠くないうちに……っと、残念。もう時間がきてしまったようだ」


 話を途中で打ち切った彼が足早にザクの部屋から出ると、


「――なっ、セバス様!? 任務から帰られていたのですか!?」


「お気を付けください! 城内に『特級戦力』アレン=ロードルが潜伏しております!」


「既に同胞グレガ=アッシュが敗れ、ヌメロ=ドーランほか数百人の護衛が斬られたそうです……っ」


 聞き慣れない三人の声が響いた。


 おそらく正面玄関で顔を合わせた神託の十三騎士が、ここまで駆け上がってきたのだろう。


「そうだったのか……。残念ながら、たった今取り逃がしたところだよ」


 そうして嘘の情報を伝えた彼は、一瞬だけスポットへ視線を向けた。


 それは紛れもなく『今のうちに逃げろ』というメッセージだ。


(……さようなら、セバスさん)


 俺は心の中でそう呟いてから、スポットへ飛び込む。


 こうして会長の救出に成功した俺たちは、無事に神聖ローネリア帝国を脱出したのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ