アレン細胞と政略結婚【四十四】
大聖堂を抜けてヌメロの本宅から飛び出すと――そこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。
広い庭園を埋め尽くすのは、黒い外套を纏った数百人を超える組織の構成員。
それに対するはリア・ローズ・リリム先輩・フェリス先輩・セバスさん――頼れる五人の仲間たちだ。
彼女たちは目の前の敵に集中しており、こちらに気付く様子はない。
(とりあえず、会長を無事救い出したことを伝えないとな)
そう判断した俺は、敵を牽制する意味も含めて大きな声で叫んだ。
「――会長の救出に成功しました! 後はみんなで皇国へ帰るだけです!」
その瞬間、組織の構成員たちに大きな衝撃が走る。
「嘘、だろ…っ。最強の護衛が……神託の十三騎士が敗れた……!?」
「ま、またアイツだ……。『特級戦力』アレン=ロードル……っ!」
「くそ、俺たちだけでは手に負えん……っ。大至急ベリオス城へ連絡しろ、増援を呼ぶんだ!」
彼らの動きが止まったその隙に、リアたちは一斉にこちらへ駆け寄ってきた。
「――アレン、会長! よかった、無事だったんですね!」
「大事なくて何よりだ!」
リアとローズは心の底から俺たちの無事を喜び、
「こ、この馬鹿シィ……! もう二度と……会えないかと思ったじゃないかぁ……っ」
「今度勝手にこんなことしたら、絶対に許さないんですけど……っ!」
リリム先輩とフェリス先輩は、目尻に涙を浮かべて会長に抱き着いた。
「会長ぉ、ご無事で何よりです……! あなたの……あなたのセバスが馳せ参じました……っ!」
セバスさんは感涙に咽び泣きながら、会長の前に膝を突く。
みんなから温かい歓迎を受けた会長は、
「みんな、いろいろと迷惑を掛けてごめんなさい……。それと――助けに来てくれて本当にありがとう……っ」
申し訳なさそうに、それと少しだけ嬉しそうにして深く頭を下げた。
そうして彼女との再会が済んだところで、
「見たところ、二人ともかなり疲弊しているようだが……。あの中には、それほどの剣士がいたのか……?」
ボロボロになった俺と会長を見て、ローズは真剣な表情でそう問い掛けてきた。
「あぁ。ヌメロの護衛には、神託の十三騎士が付いていてな……。いろいろあって、倒すのに少し手間取ったんだよ」
簡単にそう話すと、リアたちは大きく目を見開く。
「さ、さすがはアレンね……っ。『国家戦力』級の剣士を軽く仕留めてくるなんて……」
「相変わらず、とんでもないことをやってくれるな……」
リアとローズはゴクリと唾を呑み、
「なるほど……。つまりアレンくんの討伐記録は、フー=ルドラスとレイン=グラッドに続いて『三人目』というわけか……。これは完全に帝国のブラックリストに入っただろうな……うん」
「たった一人で神託の十三騎士を三人も倒したことを考えれば……。そろそろ暗殺の危険がありそうなんですけど……」
リリム先輩とフェリス先輩は、なんとも恐ろしい予想を口にした。
「しかし、単騎であのグレガを仕留めたのは、さすがとしかいいようがないな……。やはり僕の目に狂いはなかった。――アレン、君はどこに出しても恥ずかしくない立派な人外だよ」
「え……? あ、どうも……」
セバスさんの発言に少し引っ掛かりを覚えながらも、俺はとりあえずコクリと頷く。
そうしてちょっとした会話が終わったところで、リアは一歩前に踏み出した。
「――アレンも会長も無事に帰ってきたことだし、そろそろやりましょうか!」
「うむ、奴等に桜華一刀流の真の恐ろしさを教えてやるとしよう!」
「後輩のアレンくんが、大手柄を立てて見せたんだ! 私たち先輩も格好いいところ見せないとな!」
「ここから先は、全力でいくんですけど……!」
リアたちはそう言って、一気に魂装を展開した。
「侵略せよ――<原初の龍王>ッ!」
「染まれ――<緋寒桜>ッ!」
「ぶっ飛ばせ――<炸裂粘土>ッ!」
「拘束せよ――<鎖縛の念動力>ッ!」
一流の剣士四人が同時に魂装を解き放つ様は、まさに圧巻の一言だった。
圧倒的な霊力の奔流に押され、組織の構成員たちは一歩また一歩と後退していく。
(なるほど、これまであえて魂装を封じていたのか……)
どうやらリアたちは帰りの余力を残しておくため、純粋な剣術のみで戦っていたようだ。
「ここから先は、私たちが道を切り開くわ!」
「アレンと会長は、大船に乗ったつもりでいてくれ……!」
好戦的なリアとローズが先陣を切り、
「フェリス、私たちも負けてはいられないぞ!」
「もちろん……! ここまで来たら、絶対にみんなで帰るんですけど……!」
その後ろをリリム先輩とフェリス先輩が続く。
こうして俺たちは、ベリオス城十階の『スポット』を目指して駆け出したのだった。