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アレン細胞と政略結婚【四十一】


 真の黒剣を手にした俺は、グレガとの間合いを詰めるべく一直線に走り出した。


「く、そ……。近寄んじゃねェよ……ッ!灰塵の密林エンバース・フォーレストッ!」


 その一方で接近戦は分が悪いと判断した奴は、灰の木々を展開しながら後ろへ跳び下がる。


「逃がすか!」


 俺は進路を塞ぐ木々を切り倒し、最短距離を駆け抜けた。


「こんの化物が……ッ。俺の『灰』を豆腐みてェに斬ってんじゃねェ!」


 その後、十分な加速を付けつつ、必殺の間合いへ踏み込んだ俺は――その勢いのまま斬り下ろしを放つ。


「ハァ゛ッ!」


「ちィ、舐めるなァ――灰塵の円盾(エンバース・シールド)ッ!」


 グレガが灰剣(はいけん)を前に突き出せば、そこに巨大な灰の盾が出現した。

 黒剣と丸みを帯びた分厚い盾が衝突し、甲高い音が鳴り響く。


(……硬いな)


 かなりの勢いで斬り掛かったにもかかわらず、灰塵の円盾には傷一つ入らなかった。

 おそらく、相当な量の霊力が込められているのだろう。


 だが、いくら霊力を込めたところで、世界を斬り裂く斬撃の前には意味を為さない。


「五の太刀――断界(だんかい)ッ!」


 全てを斬り裂く一閃が、分厚い灰の盾を両断する。


 そうして一気に開けた視界の先では――グレガがその大きな口をグニャリと歪めていた。


「てめぇなら斬ってくると思ったぜェ……人外さんよォ! 灰塵の処女(エンバース・メイデン)ッ!」


 すると次の瞬間――真っ二つに両断された分厚い灰の盾が、突如両側から襲い掛かってきた。


 そこへ視線を向ければ、盾の断面には鋭い(とげ)がびっしりと並んでいる。

 あんなもので挟まれたら、全身穴だらけになって即死だ。


「そォらもう一つオマケだァ! 灰塵の剣(エンバース・ソード)ッ!」


 ダメ押しとばかりに前方から百を超える灰剣が殺到する。


 左右から棘付きの盾、正面から雨のような灰剣――三方向からの同時攻撃。

 かつて俺が最も苦手とした種類の攻撃だが……既に対策は完了している。


「――闇の影(ダーク・シャドウ)


 俺がポツリとそう呟けば、大口を開けたどす黒い闇が全ての灰を食らい尽くした。


「だから……なんなんだよ、そのふざけた『闇』はよォ!? 手数の多い強化系統なんざ、反則だろうが……ッ!?」


 グレガは苛立ちを隠そうともせず、左手で頭を掻きむしりながら叫び散らす。


 俺はそのわずかな隙を見逃さず、一足で間合いをゼロにした。


「七の太刀――瞬閃(しゅんせん)ッ!」


 音を置き去りにした居合斬りが空を駆け、奴が手に持つ魂装を両断する。


「速……ッ!?」


 俺はその勢いを殺さずにその場でクルリと反転し、遠心力を利用した回し蹴りを放つ。


「が、は……ッ!?」


 体の芯を捉えた感覚が右足へ伝わると同時に――グレガはまるでボールのように吹き飛んでいった。

 その後、奴は大聖堂の壁で全身を強打して派手に土煙をあげる。


「つ、強過ぎでしょ……」


 会長のどこか呆れたような呟きが響いた直後――息も絶え絶えといった様子のグレガが、ゆっくりと土煙の中から姿を現した。


「はァはァ……。あァ、わかったよ……。てめぇが鬼のように強ェってことは、よゥくわかった……。フーやザクの言っていた通りだァ。皇帝直属の四騎士や聖騎士協会の七聖剣にさえ迫れる大器だよ、てめぇは……」


 奴はブツブツと何事かを呟きながら、幽鬼のようにフラフラとした足取りでこちらへ向かってきた。


「悔しいが完敗だァ、グゥの音も出ねェ……。一対一の斬り合いじゃ、この先何億回挑んでもぶっ殺されちまうだろォ。……けどよォ、このとき(・・・・)この瞬間(・・・・)()限れば(・・・)……勝ちの目はあるんだよなァ!? ――<灰塵の粉末(エンバース・パウダー)>ッ!」


 グレガは血走った目で叫び、凄まじい量の灰をまき散らした。

 それは大聖堂全域を覆い尽くし、視界は灰色一色に染まる。


(ここにきて目くらまし……? まさか逃げるつもりか……?)


 俺はそんなことを考えつつ、横薙ぎの一閃を放ち、その剣圧で灰の粉末を吹き飛ばした。


 すると次の瞬間、


「きゃぁ……!?」


 突然背後から会長の悲鳴があがった。


「会長!?」


 慌てて振り返るとそこには――。


「ククク……ッ。おいおィ、どうするよォ? とんでもねェことになっちまってるぜェ……アレン=ロードルゥ!?」


「……アレンくん、ごめんなさい」


 会長の首筋に灰剣を突き付けたグレガが、勝ち誇った笑みを浮かべていた。


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