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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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アレン細胞と政略結婚【二十】


 俺がクラウンさんを吹き飛ばすと同時に、リアはすぐ駆け寄って来てくれた。


「大丈夫、アレン!?」


「あぁ、なんとかな……っ」


 俺は闇の衣を纏い、断裂した筋肉を一瞬にして完治させる。

 全身を襲う斥力(せきりょく)が消えたことで、体はまるで羽が生えたかのように軽かった。


 すると、


「――なぁ、アレン。最後の一撃、アレはいったい何をしたんだ?」


 ローズは真剣な表情で、そう問い掛けてきた。


「……悪い。俺にもよくわからないんだ」


 ただ一つ断言できるのは――クラウンさんを吹き飛ばしたあの力は、決して俺のものじゃない。

 かといって、ゼオンが何かをしたわけでもない。


 なんというか『異物が混じった』ような……とにかく不思議な感覚だった。


(あの力はいったい……)


 そうして自分の右手を見つめていると、


()っつつつ……っ」


 部屋の壁に全身を打ち付けたクラウンさんがゆっくりと起き上がる。


「いやぁ、さすがはアレンさんっす……。ボクの予想なんて軽く越えてくれますね!」


 彼はいつもの軽い調子で、何故かとても嬉しそうに笑った。


「クラウンさん、ゲームは俺の勝ちです。レインに会わせてください」


「あまり気乗りはしませんが、約束なんで仕方ないっすね……」


 彼は肩を竦めながら、そう言ってくれた。


 どうやら約束はちゃんと守ってくれるみたいだ。


「ありがとうございます」


 いろいろあったけど、これでようやく一歩前進だ。


(後はレインが『スポット』について、知っているかどうかだけだが……)


 実際のところ、勝算はかなり高いと踏んでいる。


 彼は黒の組織の最高幹部――神託の十三騎士の一人だ。

 そんな重役中の重役が各国に配置されたスポットについて、まさか何も知らされていないわけがない。


 俺がそんなことを考えていると、


「ボクはまだちょっと書類仕事が残っているんで、みなさんは先に受付で待っていてください」


 クラウンさんはそう言って、仕事机に目を向けた。


「……まさか、逃げたりしないわよね?」


「その書類仕事、どうしても今やらなければならないのか?」


 リアとローズは、鋭い目付きでそう問い詰めた。


 どうやら過度に不公平な勝負を持ち掛けたことで、彼への信用が失われているようだ。


「ど、どうしてもすぐ片付けなきゃいけない書類なんすよ!」


 クラウンさんは額に冷や汗(・・・)を浮かべながら、どこか慌てた様子でそう弁明した。


「……なんかおかしいぞ。書類仕事なら、今ここでやってもいいんじゃないか? わざわざ私たちが席を外す理由ってなんだ?」


「全くもってリリムの言う通りなんですけど……?」


 リリム先輩とフェリス先輩は、至極もっともな鋭い指摘を飛ばす。


「そ、それは……す、すみません。実はその書類、誰にも見られちゃいけない『機密文書』なんすよ!」


 クラウンさんはそうして、情報の後付けを繰り返した。


(……確かに、少し妙だな)


 今の彼からは何故か、焦りのようなものを感じる。


(しかも、それだけじゃない……)


 何かを必死に隠そうとしているような、そんなぎこちなさが見て取れた。


(理由はわからないけど……。この部屋に俺たちがいるのは、都合が悪いみたいだな……)


 人が嫌がることを進んでするのは、あまり好きじゃない。


 だから俺は、単刀直入に聞いてみることにした。


「――クラウンさん、ちゃんと約束は守ってくれるんですよね?」


「え、えぇ、もちろんっす! 剣士に二言はありません!」


 彼は俺の目を真っ直ぐ見ながら、はっきりとそう言った。


「……わかりました。それじゃ俺たちは、先に受付で待っていますね」


「た、助かるっす! さっすがアレンさん、話がわかりますね!」


 クラウンさんは破顔し、


「ちょ、ちょっとアレン……!?」


「その判断は、あまりに危険じゃないか!?」


 リアとローズは「信じられない」といった表情で、俺の前に立った。


「大丈夫。彼はちゃんと約束は守ると言ってくれたしな」


「…………はぁ、わかったわ」


「いつものことながら、少し人に甘過ぎだぞ……」


 そうして俺は、どこか不満気なリアとローズたちを連れて受付に向かったのだった。



 アレンたちが退室した直後――クラウン=ジェスターは、すぐさま壁にもたれかかった。


「はぁはぁ……っ。さ、さすがに効くっすねぇ……」


 彼は額に脂汗(・・)を浮かばせ、苦悶の表情のまま荒々しい息を繰り返す。


「でも……ふ、ふふふ……っ。まさかあっち(・・・)()力が(・・)先に(・・)開花する(・・・・)とは(・・)……っ。アレン=ロードル、本当に全てが無茶苦茶だ……!」


 自分の予想と正反対の事象を観測したクラウンは、心の底から楽しそうに笑う。

 研究者(・・・)気質(・・)の彼にとって、『予想外』とは極上の果実なのだ。


「ふ、ふふふ……っ! ふふ……げほ、げほ……っ」


 クラウンが()き込めば、斥力によってひび割れた床に真紅の血が飛び散る。


「あーあー……。もう滅茶苦茶っすね……」


 彼が上の服を雑に脱ぎ捨てれば――その腹部は真っ黒に染まり、痛々しい打撲痕が現れた。


「ははっ、こりゃボクじゃなきゃ即死だな……」


 クラウンの腹部は外見でわかるほど深く抉れており、折れた肋骨が重要な臓器を傷つけている。

 まさに死の一歩手前、今すぐにでも緊急治療が必要な重傷だった。


 彼はよろよろと力ない足取りで仕事机に向かい――引き出しの『裏』にある隠し穴から、青白い丸薬を取り出す。


「さすがにこれ(・・)を見られるわけには、いかないっすからね……」


 クラウンはそう呟き、その丸薬を一思いに噛み砕く。


 すると次の瞬間、


「ふぅー、生き返るっすねぇ……」


 腹部にあった打撲痕はみるみるうちに薄れていき、ものの数秒と経たないうちに完治した。


 丸薬の回復効果を確認した彼は――すぐさま床へ突き立てた魂装<不達の冠(ロンリー・クラウン)>へ目を向ける。


 そこには白と黒のシンプルな直剣が、いつもと全く変わらない安定した形態で存在していた。


「よしよし……。一粒目(・・・)なら、副作用は完全になくなったようっすね!」


 自分の研究成果に満足したクラウンは、微笑みを浮かべながら頷く。


「さてと……それじゃそろそろ、アレンさんのところへ行きましょうか」


 そうして重傷状態から回復した彼は、アレンたちの待つ受付へ向かったのだった。

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